会社に提出した年末調整の書類に間違いがあっても、その年分の源泉徴収票が作成される前であれば、会社は所得税基本通達190-5にもとづいて社内で年末調整をやり直せる。実務上の目安は翌年1月31日ごろだが、扶養親族が減って税額が不足するケースは、1月31日を過ぎていても会社側に再調整を行う義務が残る。
「11月に年末調整の書類を提出したけれど、妻の年収の見積もり金額を間違えていたことに帰りの電車で気づいた」
「机の引き出しを片づけていたら、提出したはずの生命保険の控除証明書がもう一枚出てきた」
年末調整の書類を会社に提出したあとになってから、書き間違いや扶養家族の記入漏れ、控除証明書の出し忘れに気づくサラリーマンは思っている以上に多い。総務からもらった記入例をなぞって書いたつもりでも、配偶者の年収見込みは12月にならないと確定しないし、保険会社から控除証明書が二重に届いて片方を見落とすことも普通に起きる。
この記事では、会社で行う年末調整のやり直し(再年調)の法的な根拠と実際の期限、総務への修正依頼メールの文面、12月31日時点の状況変化が年末調整にどう影響するか、そして間に合わなかった場合の確定申告でのリカバリーまで、国税庁の一次情報とあわせて整理した。
1. 結論、年末調整は「源泉徴収票の作成時」までやり直せる

会社は、年末調整をすでに終えた従業員についても、その年分の源泉徴収票を作成・交付する前であれば、所得税基本通達190-5にもとづいて社内で税額を再計算できる。
所得税基本通達190-5に定められた「年末調整のやり直し」
年末調整をやり直せる根拠は、所得税法190条の解釈を示した通達に明記されている。
【国税庁の公式見解・1次情報】
所得税基本通達190-5(年末調整後に所得控除に異動があった場合の再調整)は、次のように定めています。
『法第190条第2号の規定により同号に規定する税額を計算する場合には、所得控除はその年最後に給与等の支払をする時の現況により行うのであるが、その年最後に給与等を支払った時後その年12月31日までの間にその控除に異動があった場合において、その年分の給与所得の源泉徴収票が作成される時までにその異動に関する申告があったときは、給与等の支払者はその異動後の状況により同号に規定する税額を再計算し、その差額は法第191条《過納額の還付》の規定に準じ還付(先に年末調整を行った際に生じた不足額でまだ徴収していないものがあるときは、当該不足額のうちまだ徴収していない部分の金額に充当)して差し支えない』
出典:国税庁「法第190条《年末調整》関係」(所得税基本通達190-5) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/32/01.htm
条文の要は、源泉徴収票が作成される時までに申告があれば、会社は税額を再計算して差額を還付してよい、という一点である。日付が固定されているわけではなく、あくまで会社が源泉徴収票をいつ作るかで実質的な締め切りが決まる。
「1月31日まで」ではなく「源泉徴収票が作成される前」が正確な期限
再調整の実務上の期限は、多くの会社が源泉徴収票を翌年1月31日までに交付するため結果的に1月31日前後になるが、源泉徴収票をそれより早く発行する会社では、その時点で再調整のチャンスは終わる。
源泉徴収票の作成・交付そのものには、所得税法226条で通常の給与所得者について明確な期限が定められている。
【国税庁の公式見解・1次情報】
所得税法第226条第1項は、源泉徴収票の交付義務について次のように定めています。
『給与等の支払をする者は、その年の翌年1月31日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後1月以内)に、源泉徴収票一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない』
出典:所得税法第226条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
つまり、ほとんどの会社は1月31日までに源泉徴収票を作成して従業員に配るため、190-5がいう「源泉徴収票が作成される時まで」という条件が、実務上は「翌年1月31日まで」というひとつの目安として機能している。ただし会社によっては1月の早い段階で源泉徴収票を作り終えてしまうところもあり、そうなると社内での締め切りはもっと前倒しになる。「1月31日まで待てば絶対に大丈夫」と誤解しないことが、期限に間に合わせるための最初のポイントである。
再調整の時期ごとの対応は、次のように整理できる。
| 申し出のタイミング | 会社側の対応 |
|---|---|
| 12月中旬〜下旬 | 12月の給与計算に間に合えば、12月の給与明細で正しい還付金が支払われる |
| 1月上旬〜下旬(源泉徴収票作成前) | 1月支給の給与で差額を上乗せして精算してもらえる |
| 源泉徴収票の作成後(遅くとも1月31日以降) | 社内での再計算は原則締め切られるため、年明けに自分で確定申告(還付申告)を行う |
#### 【現場のリアル】提出後に生命保険の控除証明書を引き出しの奥から見つけた話
11月の中旬に年末調整の書類一式を総務へ出し終えたつもりでいた方の話である。年末の大掃除で自宅の書類ケースを整理していたところ、保険会社から届いた生命保険料控除証明書のはがきが、提出した書類の束とは別の引き出しに一枚だけ紛れ込んでいるのを見つけた。証明書は二枚届く保険もあると聞いていたので、一枚出せば済むと思い込んでいたという。見つけた瞬間、まず頭をよぎったのは還付額のことよりも「もう提出済みなのに今さら言い出していいのか」という気まずさだった。控除証明書の金額はおよそ8万円で、それを申告できていないと年間で数千円は多く税金を払ったままになる計算になる。結局その晩のうちに総務担当へ経緯を説明するメールを送り、翌朝には「原本を持ってきてください、こちらで再計算します」という返信が届いたという。「言い出すまでの一晩が一番長く感じたが、実際の手続きは驚くほどあっさり終わった」と振り返っていた。
2. 気づいたら何をいつまでに総務へ伝えればいいか
再年調をスムーズに進められるかどうかは、気づいてから連絡するまでのスピードでほぼ決まる。
間違いに気づいたときの5つの行動手順
やるべきことは、間違いの内容整理、証拠書類の準備、当日中の一報、締め切りの確認、期限内の提出という5つの手順に集約できる。
- まず「何が」「どの控除で」間違っていたのかを一行で整理する(例:生命保険料控除の証明書を1枚出し忘れていた)
- 正しい金額が分かる書類(控除証明書の原本、扶養控除等異動申告書など)を手元に用意する
- 総務・経理の年末調整担当者へメールまたは口頭で、その日のうちに一報を入れる
- 会社から「いつまでに原本を提出すればよいか」の締め切りを確認する
- 指定された期限までに原本を提出し、給与明細で還付額が反映されているか確認する
ポイントは、正確な金額が分かっていなくても「間違いがあったこと」だけを先に伝えてしまうことである。総務側は今月中に処理できる件数を把握しておきたいため、原本が揃うのを待ってから連絡するより先に一報を入れたほうが、結果的に処理してもらえる可能性は高くなる。
気まずさより早さを優先したほうがいい理由
総務への連絡が遅れる一番の理由は金額の大きさではなく気まずさだが、担当者側の受け止め方は本人が思うよりずっと軽いことが多い。
#### 【現場のリアル】総務に修正を申し出るのが気まずかった話
入社3年目、社員数200名ほどの会社に勤めるある方は、扶養控除等異動申告書に配偶者の見込み年収を書く欄で、130万円のところをうっかり103万円のラインで計算して書いてしまっていたことに、提出の1週間後、経理から回ってきた社内メールの控除一覧表を見て気づいた。総務の担当者とは普段ほとんど接点がなく、名前と顔が一致する程度の関係だったこともあり、「間違えましたなんて、今さら恥ずかしくて言えない」という思いが数日先延ばしにさせたという。それでも12月の給与明細が締まる前にと意を決して内線をかけたところ、電話口の担当者は「ああ、この時期は皆さんそうですよ、大丈夫です」とごく事務的に対応してくれ、拍子抜けするほど何のお咎めもなく訂正書類の再提出だけで終わったという。「自分が思っていたより、総務にとってはよくある話だった。気まずさで黙っているほうが、後から面倒になると分かった」と話していた。
3. 総務部への再年調依頼メールの書き方

再年調を依頼するメールは、誤りの内容、正しい内容、証拠となる書類の有無の3点を簡潔に書けば、それだけで総務担当者が判断できる。
間違いに気づいたら、1日でも早く総務・経理担当者へ連絡したほうがいい。件名だけでも先に送り、詳細は後から補足するくらいのスピード感で構わない。
件名:年末調整の修正のお願い(氏名:山田 太郎)
総務部(人事部)年末調整ご担当者様
お疲れ様です。[所属部署・氏名]です。
先日提出いたしました年末調整の書類につきまして、
以下の記載内容に誤りがあることが判明いたしましたのでご連絡いたします。
【修正内容】
・対象控除:生命保険料控除(一般生命保険料)
・誤:控除証明書の提出漏れ
・正:手元にあった証明書(支払額80,000円)を追加提出したい
追加の証明書原本は手元にございます。
社内での再年調(または1月給与での精算)の可否について
ご教示いただけますでしょうか。
何卒よろしくお願い申し上げます。
このメールのポイントは「誤」と「正」を並べて一目で分かるようにしている点である。総務担当者は同じ時期に何十人分もの年末調整を処理しているため、文章で長々と経緯を説明するより、修正前後の内容を箇条書きで示したほうが早く動いてもらえる。
4. 12月31日時点の状況変化は再年調の正当な理由になる
年末調整の扶養控除や配偶者控除は、その年12月31日の現況で判定するのが所得税法上の大原則であり、12月31日ぎりぎりの結婚や出産、配偶者の年収の確定は書類のミスではなく制度が想定している正当な異動にあたる。
扶養親族が増えた場合と減った場合で対応期限が変わる
扶養親族が増えて還付になる場合は源泉徴収票の作成前までが実務上の期限だが、扶養親族が減って追徴が必要になる場合は、1月31日を過ぎていても会社は年末調整をやり直す義務がある。
190-5の条文にある「その年12月31日までの間にその控除に異動があった場合」という文言は、まさにこの12月31日時点のスナップショットで判定するという考え方を表している。扶養親族の数が変わった場合の実務的な扱いについて、国税庁は次のように案内している。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.2671 年末調整の後に扶養親族等の人数が異動したとき」では、扶養親族が増えた場合について『その年分の源泉徴収票を作成・交付する日までに本人からその異動内容を記載した「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受けてください』と案内されています。年末調整をやり直さない場合は、本人が確定申告によって還付を受けることもできるとされています。
一方、扶養親族が減った場合については『本人からその異動内容を記載した「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受け、年末調整をやり直して不足している税額を徴収してください』とされ、『徴収不足税額がある場合の年末調整のやり直しについては、その異動があった年の翌年の1月末日以降であっても行う必要があります』と明記されています。
出典:国税庁「No.2671 年末調整の後に扶養親族等の人数が異動したとき」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2671.htm
つまり、還付になる修正は源泉徴収票の作成前までという期限に事実上区切られる一方、追徴が必要な修正には期限そのものが存在しない。会社にとっては、税額が不足している状態を放置するほうがあとで是正の手間が増えるため、扶養親族が減ったことに気づいたら、時期を気にせず早めに申告するのが本人にとっても会社にとっても得になる。
配偶者控除の実例、パートの年収シフトで控除額が変わるケース
配偶者控除の判定でも12月31日時点のスナップショットという考え方がそのまま使え、年末にシフトが変わって年収見込みが下がれば控除額を満額に引き上げる再調整ができる。
パートで働く配偶者の12月のシフトが急に減り、年収見込みが130万円から110万円に下がった場合、会社の再年調で配偶者控除を満額適用に変更してもらえれば、手取りの還付金をさらに数万円増やせる可能性がある。逆にシフトが増えて年収見込みが上振れした場合は、控除額が過大になっているということなので、早めに申告して不足額を精算しておいたほうが、翌年の住民税決定通知書を見て慌てずに済む。
#### 【現場のリアル】12月31日の入籍が年末調整に影響すると知って驚いた話
12月30日に婚姻届を提出し、12月31日を新婚の一日目として過ごしていた方の体験である。年末調整の扶養控除等異動申告書は結婚前の11月上旬にすでに独身の内容で提出済みだったため、「結婚は来年の話だから、今年の年末調整には関係ない」と思い込んでいたという。年が明けてから何気なく職場の先輩に結婚の報告をした際、「12月31日入籍なら今年の年末調整で配偶者控除を使えるのでは」と言われて初めて、判定基準が入籍日ではなく12月31日という年末時点のスナップショットであることを知り、驚いたそうだ。急いで総務に確認したところ、幸い会社の源泉徴収票作成がまだ済んでおらず、扶養控除等異動申告書を書き直して提出することで、その年の配偶者控除がそのまま適用された。「結婚の手続きに気を取られて、税金のことなんて頭になかった。教えてもらわなかったら数万円分の控除をまるまる取りこぼすところだった」と話していた。出産についても考え方は同じで、12月中に生まれた子どもは、その年の年末調整からすでに扶養親族として数えることができる。
5. 会社で断られた場合・間に合わなかった場合の確定申告リカバリー

会社から再年調を断られた場合でも、会社から受け取った源泉徴収票をもとに自分で確定申告(還付申告)をすれば、会社で再年調した場合と同じ金額の還付を受けられる。
もし総務から「すでに源泉徴収票の作成・提出が完了しているため、社内での修正はできません」と言われた場合でも、還付を受ける手段が失われるわけではない。
還付申告はいつでも提出できる
還付申告は通常の確定申告期間を待つ必要がなく、年が明けた1月1日から5年間、いつでも提出できる。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.2030 還付申告」では、還付申告の提出時期について次のように説明されています。
『還付申告書は、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます』
出典:国税庁「No.2030 還付申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
国税庁の確定申告書等作成コーナーは通常の申告期間(2月16日から3月15日ごろ)以外も通年で稼働しているため、会社での再年調に間に合わなかったと分かった時点で、すぐに動き出して構わない。
確定申告に切り替える際の5ステップ
やることは、源泉徴収票の受け取り、控除証明書の準備、作成コーナーへのアクセス、金額の入力、e-Tax送信という5つのステップに集約できる。
- 会社から交付された給与所得の源泉徴収票を受け取る
- 出し忘れていた控除証明書(生命保険料控除証明書など)を手元に用意する
- 国税庁「確定申告書等作成コーナー」に翌年1月1日以降にアクセスする
- 源泉徴収票の内容を入力し、追加で申告したい控除の金額を入力する
- 還付される金額を確認し、マイナンバーカードでe-Tax送信して完了する
#### 【現場のリアル】1月31日をわずかに過ぎて総務から断られ、自分で確定申告をした話
生命保険の控除証明書を出し忘れたまま提出し、1月中旬になって気づいて総務に連絡した方の話である。連絡した時点では「まだ間に合うかもしれない」と思っていたそうだが、返信は「申し訳ありませんが、当社は源泉徴収票の作成が1月20日で締め切りのため、今回の分は反映できません」というものだった。落胆したものの、総務の担当者から「確定申告すれば同じだけ戻ってきますよ」と一言添えられていたことに救われ、2月に入ってから初めて自分で確定申告書等作成コーナーを使ってみることにしたという。源泉徴収票の内容はカメラで撮影するだけでほぼ自動入力され、生命保険料控除の欄に証明書の金額を追加入力するだけで、還付される金額が画面に表示された。金額は6,400円ほどだったが、「会社に断られた時点であきらめていたお金が、結局スマホ操作10分程度で自分の口座に戻ってきた。総務に腹を立てる必要は全くなかった」と振り返っていた。
6. よくある質問
再年調について寄せられる質問のなかで特に多いのは、総務への心理的な負担、年末ぎりぎりの家族構成の変化、そして断られた後の対処の3点である。
Q1. 再年調を頼むと、総務の人に嫌がられますか
12月から1月上旬であれば、給与計算ソフト上で控除額の数字を入力し直すだけの作業であることが多く、担当者にとって極端に重い負担にはなりにくい。放置して翌年以降に税務署から会社へ是正の連絡が入るほうが、会社側にとってもかえって手間が増える。気づいた時点で早めに申し出るのは、遠慮ではなくむしろ気配りに近い行動である。
Q2. 12月31日に結婚して配偶者が増えました。再年調できますか
できる。前述の通り、扶養控除や配偶者控除は12月31日時点の現況で判定されるため、12月31日の結婚や子どもの誕生は190-5にある「その年12月31日までの間にその控除に異動があった場合」にそのまま該当する。会社の源泉徴収票作成が済んでいなければ、扶養控除等異動申告書を書き直して提出するだけで、その年の年末調整に反映してもらえる。
Q3. 総務から「もう遅い」と言われました。それでも何かできますか
できる。会社での再年調が難しくても、確定申告(還付申告)という手段が別に残っている。国税庁「No.2030」の通り、還付申告はその年の翌年1月1日から5年間提出できるため、会社に断られた直後に落ち込む必要はない。源泉徴収票と控除証明書さえ手元にあれば、自分で申告して同じ金額を取り戻せる。
まとめ、間違いに気づいたらすぐに総務へ連絡する
年末調整のやり直しは、所得税基本通達190-5により「源泉徴収票が作成される時まで」認められており、実務上は多くの会社で翌年1月31日ごろが一つの目安になる。ただし扶養親族が減って追加で税金を徴収しなければならないケースは、国税庁「No.2671」の通り、1月末を過ぎても会社は年末調整をやり直す必要がある。
12月給与に間に合わなくても1月給与で差額を精算してもらえること、12月31日時点の結婚や出産といった状況変化は制度が想定している正当な理由であること、そして会社での修正が間に合わなくても確定申告で完全にリカバリーできることを踏まえれば、気づいた時点でまずやるべきことは一つだけである。控除証明書や訂正内容を整理して、その日のうちに総務へ一報を入れることだ。
ミスをそのまま放置せず、早めに修正を申し出て、受け取れるはずの還付金をきちんと手元に取り戻したい。年末調整の書類作成をスマホで一から迷わず終わらせたい方は、完全無料で使える「書けた年末調整」もあわせて利用してほしい。