「妻が今年、産休と育休を取って子どもを産んだけれど、夫の年末調整で配偶者控除って使えるのだろうか」
「妻は育休手当を毎月もらっているけれど、手当をもらっていても夫の税金を安くできるのか知りたい」
普段は夫婦ともに正社員としてフルタイムで働いている共働き世帯の場合、お互いの年収が201万円を超えていれば、通常の年末調整で配偶者控除を使うことはできません。
ところが「妻(または夫)が今年、産前産後休業・育児休業を取得した年」だけは事情が変わってきます。正社員としてフルタイムで働き続けている人であっても、その年に限っては夫の年末調整で配偶者控除、あるいは配偶者特別控除が復活して使えるケースが実はかなりの割合であります。
国から支給される育児休業給付金(育休手当)や、健康保険から支給される出産手当金・出産育児一時金は、いずれも法律上、全額が非課税所得として扱われます。年末調整で配偶者の所得を判定するときは、この非課税所得はまるごと計算に含めなくてよく、今年1月1日から産休に入る前までに実際に会社から支払われた給料だけを合計すれば済みます。
もし産休に入るまでの給与総額が123万円以下であれば配偶者控除、160万円以下であれば配偶者特別控除の満額(38万円)が、夫の年末調整の申告だけで適用されます。この記事では、育休中の妻を配偶者控除に入れる税制の根拠から、産休前の給与年収判定ライン、夫の年収別の節税シミュレーション、そして令和8年分の年末調整用紙(基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書)の具体的な書き方まで、国税庁の一次情報と現場で実際に起きた話を交えて整理しました。
1. 大前提:育休手当や出産手当金は「税務上の年収0円」

育児休業給付金は雇用保険法で非課税と定められている
国税庁の確定申告書等作成コーナーには、育児休業給付金を受給している配偶者の扱いについて、次のような案内があります。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「育児休業基本給付金の支給を受けている配偶者」のページでは、次のように説明されています。
『雇用保険法第61条の4の規定に基づき支給される育児休業基本給付金は、同法第10条に規定する失業等給付に該当し、同法第12条の規定により課税されないこととなっていますので、控除対象配偶者に該当するかどうかを判定する場合の合計所得金額には含まれません』
出典:国税庁「育児休業基本給付金の支給を受けている配偶者」 https://www.keisan.nta.go.jp/r1yokuaru/cat2/cat22/cat22a/cid023.html
雇用保険法第12条そのものには「租税その他の公課は、失業等給付として支給を受けた金銭を標準として課することができない」と定められており、育児休業給付金はこの失業等給付のひとつとして扱われます(出典:雇用保険法第12条〈e-Gov法令検索〉 https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC0000000116 )。
出産手当金・出産育児一時金も同じく非課税
産休中に受け取る出産手当金や、出産時にまとまって支給される出産育児一時金についても、国税庁は次のように案内しています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「出産育児一時金の支給を受けている配偶者」のページでは、次のように説明されています。
『健康保険法第101条の規定に基づき支給される出産育児一時金や同法第102条の規定に基づき支給される出産手当金は、同法第62条の規定により課税されないこととなっていますので、控除対象配偶者に該当するかどうかを判定する場合の合計所得金額には含まれません』
出典:国税庁「出産育児一時金の支給を受けている配偶者」 https://www.keisan.nta.go.jp/r1yokuaru/cat2/cat22/cat22a/cid022.html
つまり、育休手当も出産手当金も出産育児一時金も、税務上はまとめて「なかったもの」として扱ってよいということです。整理すると次のようになります。
【育休中の妻の年収判定の実際】
| ① 育休手当・出産手当金など (非課税所得) | 年間 200万円 受給していても → 税制上は0円 |
|---|---|
| ② 1月〜産休前までの給与 | 年間 120万円 → 税制上の年収は120万円のまま |
| = 今年の税法上の妻の年収 | 120万円(合計所得55万円) → 給与収入123万円以下のため、 夫側で配偶者控除・満額38万円が適用! |
育休手当をどれだけ多く受け取っていても、税金計算の上では年収ゼロとして扱われます。判定の対象になるのは、あくまで産休に入る前に会社の給与として実際に振り込まれた金額だけです。
【現場のリアル】妻の所得見積額をどう書けばいいか、総務に電話で確認した話
産休に入ったばかりの妻を持つ夫の方から聞いた話です。年末調整の書類が会社から配られたとき、配偶者控除等申告書の「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額」という欄に何を書けばいいのか、まったく見当がつかなかったといいます。育休手当の振込明細を見ながら、月十数万円ずつ入っている金額を合計して書こうとしていたところ、たまたま経理に詳しい先輩から「それ、育休手当は非課税だから書かなくていいはずだよ」と指摘され、慌てて会社の総務担当者に電話をかけたそうです。総務担当者からは「産休に入る前、1月から実際にお給料として振り込まれた金額だけを、源泉徴収票や給与明細で確認して書いてください。育休手当の分は一切足さなくて大丈夫です」とはっきり回答があり、電話を切ったあとに「危うく育休手当まで所得に入れて、控除が受けられない書き方をするところだった」と胸をなで下ろしたといいます。この手当を所得に含めてしまう思い込みは、同じ立場の人からもよく聞く勘違いのひとつです。
2. ひと目でわかる!「産休前の給料」と夫が受けられる控除額一覧表
配偶者控除・配偶者特別控除の所得要件は、令和7年分の税制改正によって従来より広がりました。国税庁のタックスアンサーには次のように示されています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1191 配偶者控除」では、控除対象配偶者の要件のひとつとして『年間の合計所得金額が58万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が123万円以下)』が令和7年分から適用されると案内されています。
出典:国税庁「No.1191 配偶者控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1195 配偶者特別控除」では、令和7年分以降、配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額の範囲が『58万円超133万円以下』であると案内されています。控除額は納税者本人の合計所得金額が900万円以下の場合、配偶者の合計所得金額58万円超95万円以下で満額の38万円、それを超えると段階的に縮小し、130万円超133万円以下で3万円となります。
出典:国税庁「No.1195 配偶者特別控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm
妻が今年1月1日から産休開始までに受け取った給与総支給額を、この所得の物差しに当てはめると、夫の年末調整で受けられる控除額は次のようになります(夫本人の合計所得金額900万円以下、給与収入は給与所得控除65万円〈収入190万円以下の場合〉を差し引いて所得に換算しています)。
| 妻の今年の給与総額(1月〜産休前) | 妻の合計所得金額 | 夫が受けられる控除の区分 | 夫の所得税控除額 |
|---|---|---|---|
| 〜123万円以下 | 〜58万円以下 | 配偶者控除(満額) | 380,000円 |
| 123万超〜160万円以下 | 58万超〜95万円以下 | 配偶者特別控除(満額) | 380,000円 |
| 160万超〜165万円以下 | 95万超〜100万円以下 | 配偶者特別控除 | 360,000円 |
| 165万超〜175万円以下 | 100万超〜110万円以下 | 配偶者特別控除 | 260,000〜310,000円 |
| 175万超〜195万円以下 | 110万超〜130万円以下 | 配偶者特別控除 | 60,000〜210,000円 |
| 195万超〜201.6万円未満 | 130万超〜133万円以下 | 配偶者特別控除 | 30,000円 |
| 201.6万円以上 | 133万円超 | 控除対象外(適用なし) | 0円 |
住民税(個人住民税)でも所得税とほぼ同じ所得ラインで配偶者控除・配偶者特別控除が受けられますが、控除額の上限は所得税の38万円に対して住民税は33万円と、金額の作りが少し異なります。住民税の細かい金額は自治体が発行する翌年度の課税明細で確認できますので、ここでは所得税の控除額を中心に整理しています。
【いちばん見てほしいライン:給与収入160万円以下なら満額38万円控除】
春(4月〜6月頃)から産休・育休に入った正社員の妻であれば、1月〜産休前までの給与総額は
100万〜150万円前後に収まるケースが多く、ほとんどの場合で満額38万円の控除を受けられます。
以前の制度(令和6年分まで)で言われていた「150万円の壁」は、令和7年分からは「160万円の壁」
に変わっている点に注意してください。ネット上の古い記事には103万円・150万円のまま書かれて
いるものも多く残っているため、実際に申告する年の国税庁タックスアンサーの数字で必ず確認する
ことをおすすめします。
3. 【夫の年収別】配偶者控除で戻ってくる「還付金」シミュレーション

夫の年末調整で育休中の妻を申告した場合、12月の給料でどれだけの税金が現金で戻ってくるかの目安です。所得税の税率区分は国税庁「No.2260 所得税の税率」の速算表にもとづいています(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm )。
| 夫の給与年収 | 配偶者控除額 | 夫の所得税率の目安 | 夫の年間節税額(手取り増、目安) |
|---|---|---|---|
| 500万円 | 38万円 | 10% | 約71,000円 |
| 700万円 | 38万円 | 20% | 約109,000円 |
| 900万円 | 38万円 | 20% | 約109,000円 |
| 1,100万円 | 26万円(逓減) | 23% | 約68,900円 |
| 1,200万円 | 0円(対象外) | ー | 0円 |
夫の口座には、およそ7万〜11万円前後の現金が一括で振り込まれることになり、オムツ代やミルク代、ベビー用品の購入費用として活躍します。
なお、世の中でよく「夫の年収900万円を超えると配偶者控除が減る」と書かれていますが、正確には夫本人の給与収入ではなく、給与所得控除後の合計所得金額が900万円を超えた場合です。会社員で給与収入が850万円を超えると給与所得控除額は上限の195万円で固定されるため、給与収入に換算するとおおよそ1,095万円を超えたあたりから控除額が26万円に、1,145万円を超えると13万円に、1,195万円を超えると配偶者控除自体が使えなくなります。年収900万円台の方が「もう対象外だ」と早合点して申告し忘れてしまうケースも見かけるため、実際の給与収入で判断するようにしてください。
4. 夫の年末調整「基礎控除 兼 配偶者控除等申告書」の書き方実例
夫が会社へ提出する書類は、令和8年分から正式名称が「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼給与所得者の特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書」という長い名前になっています。この申告書についての国税庁の案内ページは次の通りです。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「A2-4 給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除、特定親族特別控除及び所得金額調整控除の申告」のページに、この申告書の提出対象者や記載方法についての解説と、年分ごとの記載例(PDF)が掲載されています。
出典:国税庁「A2-4 給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除、特定親族特別控除及び所得金額調整控除の申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_73.htm
書類のうち、配偶者控除等申告書に該当する部分の記入イメージです(妻の産休前給与145万円・所得80万円の場合)。
### 配偶者控除等申告書の記入イメージ(用紙の該当欄)
- 氏名(フリガナ):山田 花子(妻の氏名)
- 生年月日 :平02.5.15
- 住所 :同上(夫と同じ住所)
- [ 配偶者の本年中の合計所得金額の見積額 ]
・給与所得:収入金額[ 1,450,000 円 ]→ 所得金額[ 800,000 円 ]
- (育休手当・出産手当金は非課税のため、この欄には一切含めない)
・合計所得金額の見積額:[ 800,000 円 ]
・所得金額の区分:配偶者特別控除に該当する区分に丸をつける
・控除額の計算欄:控除額表に当てはめて算出した金額を記入
- → このケースでは 380,000 円(満額)
見積額を書くときは、給与所得の「収入金額」欄に産休前の給与総額を、「所得金額」欄にはそこから給与所得控除を差し引いた金額を書きます。育休手当や出産手当金の金額は、この用紙のどこにも書く必要がありません。
【現場のリアル】配偶者控除等申告書の「区分」欄の意味が分からず、夫婦で四苦八苦した話
共働きで育休を取得したばかりの夫婦から聞いた話です。夫が会社から配偶者控除等申告書を渡されたものの、「配偶者の区分」の欄にいくつも並んだ選択肢のどれに丸をつければいいのか、夫婦二人で用紙を挟んで20分近く頭を悩ませたそうです。夫は「特別控除って書いてあるから、自分たちは特別な事情じゃないから違うのでは」と思い込み、妻は妻で「うちは正社員だから対象外なんじゃないか」と不安がり、結局その日は記入を諦めて会社に用紙を持ち帰ったといいます。翌日、経理担当者に用紙を見せながら相談したところ、「産休前のお給料の金額だけ聞かせてもらえれば、こちらで区分を確認しますよ」とその場で一緒に計算してもらえ、5分もかからず記入が完了しました。「自分たちだけで完璧に理解しようとせず、早めに担当者に見せればよかった」と振り返っていたのが印象的でした。
5. よくある質問(Q&A)

Q1. 育休2年目で、今年1年間まるまる給料がゼロでした。配偶者控除は使えますか。
はい、妻の今年の給与が0円(合計所得0円)であれば、給与収入123万円以下のラインを大きく下回っているため、満額38万円の配偶者控除がそのまま適用されます。育休が延長になって年をまたいでいる場合でも、判定するのはあくまで「その年(1月1日から12月31日まで)の所得」ですので、育休何年目であるかは関係ありません。
Q2. 出産育児一時金(約50万円)や出産手当金も年収に足す必要はありませんか。
一切足す必要はありません。前述の通り、健康保険法第62条の規定により非課税所得とされているため、配偶者控除等申告書のどの欄にも記入は不要です。
Q3. 会社独自の出産祝い金や育児手当(法定外の福利厚生)はどう扱えばいいですか。
会社が就業規則にもとづいて独自に支給する出産祝い金や育児手当は、育児休業給付金や出産手当金のような法律上の非課税所得ではなく、給与所得として課税対象になる場合があります。金額や名目によって扱いが変わるため、勤務先の給与担当者に「これは課税対象になりますか」と確認してから申告書に反映するのが確実です。
Q4. 令和6年分までの記事や書籍には「103万円・150万円」と書かれていますが、古いのでしょうか。
令和6年分までは配偶者控除の所得要件が48万円(給与収入103万円)、配偶者特別控除満額の所得要件が95万円(給与収入150万円)でした。令和7年分の税制改正でこれらの数字が引き上げられ、現在は58万円(給与収入123万円)・95万円(給与収入160万円)が基準になっています。書籍やネット記事は改訂が追いついていないことがあるため、申告する年の国税庁タックスアンサーの数字を必ず確認してください。
6. 【復職年の注意点】育休から復職した年の年末調整ルール
育休から仕事に復帰した年(例:5月に復職)の年末調整は、復職した月から12月までに会社から支給された給料だけで年収を判定します。復職前にもらっていた育休手当は非課税のため計算に含めず、復職年であっても配偶者特別控除が使えるチャンスが残っています。
【現場のリアル】復職した年、育休手当と復職後の給料を混同しかけた話
5月に育休から復職した方の話です。年末調整の書類を書く段になって、1月から4月まで受け取っていた育休手当と、5月に復職してから振り込まれた給料の両方を合算してしまい、「合計所得金額の見積額」の欄に130万円以上の数字を書いてしまいそうになったといいます。提出直前に人事担当者から「1月〜4月は育休手当だけですよね。それなら5月以降のお給料だけで計算してください」と指摘を受け、慌てて計算し直したところ、実際の所得は復職後8か月分の給与のみで60万円ほどにおさまり、配偶者特別控除の満額が受けられる範囲に収まっていたそうです。「自分で計算すると、どうしても育休手当まで足してしまう。1年の途中で状況が変わる年ほど、人事担当者に一度見てもらったほうが安心だと痛感した」と話していました。
まとめ:産休・育休の年は夫の年末調整で確実に配偶者控除を受けよう
育休手当や出産手当金、出産育児一時金は、雇用保険法や健康保険法の規定にもとづいて全額が非課税所得として扱われます。年末調整で配偶者の所得を計算するときは、この非課税所得を一切含めず、1月から産休に入る前までに実際に支払われた給料だけを合計すれば十分です。
令和7年分の税制改正により、判定ラインは給与収入123万円以下(配偶者控除満額)、160万円以下(配偶者特別控除満額)に広がりました。育休2年目で年間の給与がゼロだった年も、満額の適用対象になります。この申告だけで、夫の税金がおよそ7万〜11万円ほどキャッシュバックされることも珍しくありません。
出費がかさむ子育ての時期だからこそ、税制の仕組みを正しく知って、世帯の手取りを取りこぼさないようにしておきたいところです。