「薬局で風邪薬や花粉症の薬をよく買うけれど、医療費控除の特例って何のことだろう」
「『セルフメディケーション税制』と『普通の医療費控除』、どちらを選んだ方が税金が多く戻ってくるのか分からない」
病院に行くほどではない軽い体調不良のとき、ドラッグストアで市販薬(OTC医薬品)を買ってセルフケアをする人を税制面から後押しする制度が、セルフメディケーション税制(特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例)です。
通常の医療費控除は、年間の医療費が10万円を超えないと使えません(総所得金額等が200万円未満の人は、その5%を超える部分が対象)。これに対してセルフメディケーション税制は、指定された市販薬の年間購入額が1万2,000円を超えた部分について、最高8万8,000円まで所得控除を受けられる制度で、通常の医療費控除よりもはるかに低いハードルで使えます。
ただし所得税法上、この二つの制度はどちらか一方しか選べません。国税庁「No.1131 セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用」では、セルフメディケーション税制は医療費控除の特例であり、通常の医療費控除との選択適用となるため、いずれか一方を選択して適用することになると説明されています。
出典:国税庁「No.1131 セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1131.htm
この記事では、セルフメディケーション税制の対象となる市販薬の見分け方から、通常の医療費控除との損得シミュレーション、申告に必要な条件(健康診断の受診)、そして確定申告の手順まで整理しました。
【現場のリアル】どちらがお得か分からず、レシートを二回に分けて計算し直した話
確定申告の時期にドラッグストアのレシートを一年分かき集めた方から聞いた話です。花粉症の薬と胃腸薬をほぼ毎月買っていて、レシートには「対象」マークがついているものが結構あった。セルフメディケーション税制が使えそうだと分かって喜んだが、同じ年に歯科の治療でまとまった出費もしていたことを思い出し、「じゃあ普通の医療費控除の方が得なんじゃないか」と不安になったという。結局その方は、市販薬だけの小計とすべての医療費の合計、二通りをそれぞれ電卓で計算し直し、控除額を突き合わせてから確定申告書を作成したそうだ。「両方の制度があるのは知っていたけれど、まさか自分で二回計算しないと損得が分からないとは思わなかった」と振り返っていた。医療費の内訳が病院代中心なのか市販薬中心なのかによって結論が変わるため、レシートを仕分ける前に一度両方の金額を出してみるのが、結果的に一番早い確認方法だという。
1. ひと目でわかる、「通常の医療費控除」と「セルフメディケーション税制」の比較表

まず、二つの制度の根本的な違いを整理します。
| 比較項目 | 通常の医療費控除 | セルフメディケーション税制 |
|---|---|---|
| 対象となる費用 | 病院の診療代・入院費・処方薬・通院交通費等 | 薬局等で購入した指定の市販薬(スイッチOTC等) |
| 控除が使える足切りライン | 年間10万円超(総所得200万円未満は所得の5%超) | 年間1万2,000円超 |
| 控除限度額 | 最高200万円 | 最高8万8,000円 |
| 必要な取り組み要件 | 特になし | 定期健診、人間ドック、がん検診等の受診 |
| 両方の併用 | 不可(どちらか一方のみ選択適用) | 不可(どちらか一方のみ選択適用) |
| 根拠法令 | 所得税法第73条 | 租税特別措置法第41条の17の2 |
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」では、その年に支払った医療費の合計額が10万円(総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%相当額)を超える場合に、その超える部分の金額(最高200万円)を所得から控除できると説明されています。
出典:国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】」では、健康の保持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行っている居住者が、平成29年1月1日から令和8年12月31日までの間に特定一般用医薬品等購入費を支払った場合、その金額のうち1万2,000円を超える部分の金額(最高8万8,000円)を、その年分の総所得金額等から控除できると説明されています。
出典:国税庁「No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
制度選びの目安
・病院にかかることが多く、年間の総医療費が10万円を超える世帯 → 通常の医療費控除
・病院にはあまり行かないが、ドラッグストアで市販薬を年1.2万円以上買う世帯 → セルフメディケーション税制
2. 対象となる市販薬(スイッチOTC医薬品等)の見分け方
セルフメディケーション税制の対象となるのは、医師が処方する医療用医薬品から転用された「スイッチOTC医薬品」など、厚生労働大臣が指定する医薬品です。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1132 セルフメディケーション税制の対象となる特定一般用医薬品等購入費」では、対象となる特定一般用医薬品等とは、医療用から転用された医薬品(いわゆるスイッチOTC医薬品)等のうち、医療保険各法の規定により療養の給付として支給される薬剤との代替性が特に高いものとして厚生労働大臣が定めるものをいうと説明されています。対象品目は成分ごとに告示で定められており、一部の対象医薬品にはパッケージにセルフメディケーション税制の対象である旨を示す識別マークが表示されています。
出典:国税庁「No.1132 セルフメディケーション税制の対象となる特定一般用医薬品等購入費」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1132.htm
対象となる代表的な市販薬(例)
・解熱鎮痛薬:ロキソニンS、イブクイック、バファリンプレミアム等
・花粉症・鼻炎薬:アレグラFX、アレジオン20、クラリチン等
・胃腸薬:ガスター10、パンシロン等
・湿布・塗り薬:ボルタレン、サロンパス、フェイタス等
厚生労働省のホームページには、成分ごとの対象品目一覧が公開されています。手元の薬が対象かどうか迷ったときは、パッケージの識別マークとあわせて確認すると確実です。
レシートでの確認方法
ドラッグストアのレシートを見ると、対象商品の商品名の横に「*」や「◆」、あるいは「セルフメディケーション対象」といった識別マークが印字されており、レシートの最下段に対象商品の小計金額が記載されています。この小計欄の数字をそのまま拾えば、一枚ずつ商品を仕分ける手間は省けます。
【現場のリアル】レシートのマークが見つからず、店員に聞いて回った話
確定申告の準備をしていた方が、半年分のレシートを見返してもどこにも「対象」の印字が見当たらず、困ってドラッグストアに足を運んだという話がある。レジで「このレシート、セルフメディケーション税制の対象品ってどこに書いてあるんですか」と店員に尋ねたところ、そのレシートには小計欄自体が印字されていない古いフォーマットのものが混じっていたことが判明した。店員から「うちのレシートは下の方に小計が出ますが、お使いのポイントカードアプリの電子レシートだと表示が省略されることがあります」と説明を受け、結局は該当月のレシートをアプリの購入履歴からもう一度出力し直すことになったそうだ。「マークを探すだけかと思っていたら、レシートの種類によって表示のされ方まで違うとは知らなかった」とのことで、電子レシートを使っている人は、購入履歴の詳細画面まで開いて確認する必要がある。
3. 損得シミュレーション、どちらを選べば手取りが多く戻るか

二つのケースで、どちらの制度を選択すべきか試算しました(年収500万円・税率20%の会社員という設定です)。
ケース1:病院代5万円 + 市販薬(対象)4万円 = 合計9万円の場合
・通常の医療費控除:合計9万円 < 10万円 → 控除額0円(使えない)
・セルフメディケーション税制:4万円 − 1.2万円 = 控除額28,000円
→ セルフメディケーション税制を選ぶことで、年間約5,600円の減税
ケース2:病院代18万円 + 市販薬(対象)3万円 = 合計21万円の場合
・通常の医療費控除:21万円 − 10万円 = 控除額110,000円 → 減税約2.2万円
・セルフメディケーション税制:3万円 − 1.2万円 = 控除額18,000円 → 減税約3,600円
→ 通常の医療費控除を選んだ方が、約18,400円多く税金が戻る
このように、病院代の比重が大きい世帯は通常の医療費控除、市販薬の購入が中心の世帯はセルフメディケーション税制が有利になりやすい傾向があります。ただし総所得金額等が200万円未満の人は医療費控除の足切りラインが下がるため、ケースごとに両方の控除額を実際に計算して比べるのが確実です。
【現場のリアル】家族4人分のレシートを合算したら、想定と逆の結果になった話
共働きで子ども二人がいる世帯の方から聞いた話。毎年花粉症の薬をまとめ買いしていたため、当然セルフメディケーション税制の方が得だろうと思い込んでいたという。ところが実際にレシートを集計してみると、下の子が夏に入院した際の医療費が想定より大きく、家族全員分の医療費合計が10万円を軽く超えていた。「市販薬のレシートばかり気にしていたけれど、入院費のインパクトをすっかり忘れていた」と本人は苦笑していた。生計を一にする家族の医療費は、通常の医療費控除でもセルフメディケーション税制でも合算できる点は共通しているため、片方の制度だけを念頭に置いてレシートを整理すると、こうした見落としが起きやすい。結局その世帯は通常の医療費控除を選び、市販薬のレシートはその年は使わずに終わったという。
4. 申告に必要な「健康の維持増進の取り組み」要件
セルフメディケーション税制の適用を受けるには、申告する本人がその年に、健康の保持増進及び疾病の予防への取組として、次のいずれかを行っている必要があります。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1129」では、一定の取組として、特定健康診査(いわゆるメタボ健診)や予防接種、勤務先で実施する定期健康診断、健康保険組合等が実施する健診、市区町村が健康増進事業として行う健康診査やがん検診などが挙げられています。これらのいずれか一つを行っていれば要件を満たし、すべてを受ける必要はないとされています。
出典:国税庁「No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
一定の取組に該当する主なもの
・職場の定期健康診断(勤務先が実施する健診)
・特定健康診査(メタボ健診)、特定保健指導
・人間ドック、各種健診
・市区町村が実施するがん検診、健康増進事業としての健診
・インフルエンザ等の予防接種(定期接種を含む)
以前は健診結果通知表や領収書といった証明書類を確定申告書に添付または提示する必要がありましたが、令和4年分の申告からは、取組の名称や取組を行った年、実施機関の名称を「セルフメディケーション税制の明細書」に記入する方式に簡略化されています。証明書類そのものは提出しなくてよくなった一方で、自宅で5年間保管しておく必要がある点は変わりません。
出典:国税庁「セルフメディケーション税制」(確定申告特集) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/keisubetsu/self-medication.htm
【現場のリアル】健診を受けていなかったことに気づき、青ざめた話
市販薬のレシートを1年分きっちり集め、控除額の計算まで終えて確定申告書を作成していた方の話。最後の項目で「その年に健康診断等を受けましたか」というチェック欄を見て、はたと手が止まったという。その年はちょうど転職の合間で健康保険の切り替えがあり、会社の定期健康診断を受けそびれていたことを思い出し、血の気が引いたそうだ。慌てて年内に受けたインフルエンザの予防接種の記録がないか調べたところ、かかりつけのクリニックで接種した際の領収書が残っており、これが「一定の取組」の予防接種に該当することが分かってなんとか事なきを得た。「健診だけが条件だと思い込んでいたが、予防接種でもいいと知らなかったら、市販薬のレシートを集めた苦労が全部無駄になるところだった」と話していた。転職や退職で健診のタイミングがずれやすい年は、健診以外にも予防接種等の記録がないか確認しておくと安心できる。
5. なぜ併用できないのか、選択適用のルール

セルフメディケーション税制は、通常の医療費控除そのものを定めた所得税法第73条に対する特例として、租税特別措置法第41条の17の2に規定されています。制度の性質上、片方を選んだらもう片方は使えません。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1131 セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用」では、セルフメディケーション税制は医療費控除の特例であり、通常の医療費控除との選択適用となるため、いずれか一方を選択して適用することになると説明されています。さらに、セルフメディケーション税制の適用を受ける場合には、その対象となる特定一般用医薬品等購入費以外の医療費の額が通常の医療費控除の適用下限額を超えるときであっても、通常の医療費控除を併せて受けることはできないとされています。
出典:国税庁「No.1131 セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1131.htm
つまり、市販薬以外にも病院代がかさんでいて医療費合計が10万円を超えていたとしても、いったんセルフメディケーション税制を選んで確定申告を提出すると、その年は通常の医療費控除に切り替えることはできません。申告前に、必ず両方の控除額を計算して比較しておく必要があります。
6. レシート整理術、ドラッグストアのレシートを仕分ける手順
一年分のドラッグストアのレシートから、セルフメディケーション対象品を集計する手順です。
レシート集計の手順
手順1:レシートの品名の横にある「*」や「セルフメディケーション対象」の表示を探す
手順2:レシート下部に「セルフメディケーション税制対象商品小計:〇〇円」の印字があれば、その数字を拾う
手順3:エクセルまたは国税庁の医療費集計フォームに対象金額を合算し、年間1万2,000円を超えているか確認する
複数のドラッグストアやオンラインストアで買い物をしている場合は、店舗ごとに合計を出してから最後に足し合わせると、集計漏れが起きにくくなります。
7. よくある質問
Q1. 家族(配偶者や子ども)のために買った市販薬のレシートも合算できますか。
はい。生計を一にする配偶者や親族のために支払った分も含めて、全額を合算して申告できます。これは通常の医療費控除でも共通のルールで、国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」にも、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った医療費が対象となる旨が明記されています。
Q2. 会社の年末調整でセルフメディケーション税制を申請できますか。
いいえ、できません。医療費控除やセルフメディケーション税制は年末調整の対象外の控除のため、年が明けてから税務署へ確定申告を行う必要があります。給与所得者であっても、この控除を受けるためだけに確定申告書を作成し、e-Taxまたは書面で提出することになります。
Q3. 健康診断を受けていない年は、セルフメディケーション税制をまったく使えませんか。
その年に一定の取組を何も行っていなければ、その年分としては適用を受けられません。ただし、一定の取組は健康診断に限らず、予防接種やがん検診なども含まれるため、年内に受けたものがないか確認する価値はあります。何も該当するものがなかった場合は、その年は通常の医療費控除の適用可否のみを確認することになります。
Q4. レシートを紛失してしまった商品は集計に含めてよいですか。
原則として、レシートや領収書は税制の証拠書類として5年間の保管義務があるため、紛失した分は集計に含めないのが安全です。ポイントカードアプリやドラッグストアの購入履歴機能に電子データが残っている場合は、そちらを印刷または保存して代用できることがあるので、店舗のサービスセンターに確認してみてください。
まとめ
セルフメディケーション税制は、市販薬の年間購入額が1万2,000円を超えていれば、最大8万8,000円の所得控除を受けられる制度です。国税庁「No.1129」の要件どおり、健康診断や予防接種などの一定の取組を行っていることが前提になります。
通常の医療費控除とはどちらか一方しか選べません(国税庁「No.1131」)。病院代が多い年は通常の医療費控除、市販薬の購入が中心の年はセルフメディケーション税制が有利になりやすい傾向がありますが、最終的にはその年の実際の支出内訳で両方の控除額を計算し、比較してから選ぶのが確実です。家族全員分のレシートを合算できる点、年末調整では申請できず確定申告が必要な点も、あわせて押さえておくとよいでしょう。
ドラッグストアのレシートを日頃から保管しておき、確定申告の際に落ち着いて計算できるようにしておくことをおすすめします。
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