「昼は正社員、夜は居酒屋でアルバイトをしているけれど、両方の会社で年末調整をするの?」
「2つのバイト先から年末調整の書類を渡されたけれど、両方に提出していいの?」
複数の職場で働く「Wワーク」「副業アルバイト」「掛け持ちフリーター」が増える中で、毎年必ず発生する税金トラブルが「年末調整の二重提出」です。
先に要点だけお伝えしておきます。所得税法上、年末調整を受けられるのは「収入が最も多いメインの1社(主たる給与)」だけです。サブの勤務先(従たる給与)では年末調整を行うことは法律上できません。
そして日本の税制には「甲欄(こうらん)」と「乙欄(おつらん)」という2つの源泉徴収ルールが存在し、年末調整をしないサブのバイト先では、毎月の給料から通常よりも高い所得税(乙欄税率)が天引きされる仕組みになっています。
もし2社両方に年末調整の用紙(扶養控除等申告書)を出してしまうと、基礎控除などが二重に適用された状態が税務署のシステムで検知され、後から会社へ是正の連絡が入って追徴課税を受けることになります。
この記事では、Wワーク・掛け持ちワーカーの年末調整の絶対ルールから、甲欄と乙欄の税率の違い、サブ先にどう伝えれば角が立たないか、そしてサブ先で引かれた高い税金を確定申告で取り戻す手順まで、根拠となる条文・国税庁の解説と、実際にあったやり取りを交えて整理しました。
1. 結論:年末調整ができるのは「メインの1社」だけ

所得税法第194条が定める「主たる給与の支払者」ルール
所得税法は、年末調整の前提となる「給与所得者の扶養控除等申告書(マル扶)」の提出先について、次のように定めています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
所得税法第194条第1項は、次のように定めています。
『国内において給与等の支払を受ける居住者は、その給与等の支払者(その支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者)から毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに、次に掲げる事項を記載した申告書を、当該給与等の支払者を経由して……所轄税務署長に提出しなければならない』
出典:所得税法第194条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
条文の「その支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者」という一文が、Wワークの提出先を1社に絞る根拠です。国税庁の手続き案内ページでも、この点を次のように補足しています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」の[備考]では、次のように説明されています。
『国内において給与の支給を受ける居住者は、源泉控除対象配偶者や扶養親族の有無にかかわらず原則としてこの申告を行わなければなりません。この申告を行わない場合は、月々(日々)の源泉徴収の際に受けることのできる諸控除が受けられず、また年末調整も行われないことになります。また、2以上の給与の支払者から給与の支払を受ける場合には、そのいずれか一の給与の支払者に対してのみ提出することができます』
出典:国税庁「A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_01.htm
【Wワーク・掛け持ち時の会社の役割分担】
| ① メインの会社(収入が多い) (主たる給与) | 扶養控除等申告書を提出する ->「甲欄」 基礎控除や各種控除が適用され、年末調整を実施 |
|---|---|
| ② サブの会社(収入が少ない) (従たる給与) | 扶養控除等申告書を出さない ->「乙欄」 年末調整は行わず、高い税率で天引きされる |
どちらの会社をメインにするかは自分で選べますが、通常は「年間で最も給与収入が多い会社」をメイン(甲欄)にするのが原則です。
【現場のリアル】うっかり2社に申告書を出しそうになった話
飲食店の正社員として働きながら、週末だけ倉庫の軽作業バイトを始めたばかりの方から聞いた話です。11月、正社員先とバイト先の両方から「扶養控除等申告書」の用紙を同じ週に渡され、特に疑問も持たずに両方の氏名欄と住所欄を埋め、それぞれの担当者に提出しようとしていたそうです。たまたま倉庫バイトの休憩中に同僚から「え、正社員の方でも扶養控除の書類出してるなら、こっちは乙欄にしてもらった方がいいんじゃない」と声をかけられ、そこで初めて「1社にしか出せない」ルールがあることを知ったといいます。もう1枚は提出直前に破棄し、倉庫バイトの担当者には口頭で「本業の方で扶養控除の申告をしているので、こちらは提出しません」と伝え直したとのことでした。「両方から催促されると、両方に出さなきゃいけない気がしてしまう」という感覚は、複数の職場を掛け持ちする人なら誰でも一度は通る道のようです。
2. ひと目でわかる「甲欄」と「乙欄」の源泉徴収税額表の違い
給与明細を見ると、メインの会社とサブの会社で引かれている所得税の金額がまったく違うことに気づくはずです。この違いは、国税庁が公開している源泉徴収税額表のどの欄を使って税額を計算するかによって生まれます。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.2511 税額表の種類と使い方」では、次のように説明されています。
『「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に支払う給与については「甲欄」を、その他の人に支払う給与については「乙欄」を使って税額を求めます』
出典:国税庁「No.2511 税額表の種類と使い方」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2511.htm
| 比較項目 | 甲欄(メインの職場) | 乙欄(サブの職場) |
|---|---|---|
| 扶養控除等申告書 | 提出している | 提出していない(提出できない) |
| 毎月の税金計算 | 通常の低い税率(月収8.8万円未満は税金0円) | 最初から高い税率(月収数万円でもしっかり引かれる) |
| 年末調整の実施 | 年末調整を行う(還付金あり) | 年末調整は行わない |
| 源泉徴収票の表記 | 区分欄に「甲」と印字される | 区分欄に「乙」と印字される |
【乙欄の税金の高さの具体例(月給5万円の場合)】
・甲欄(メイン先):税額表により所得税0円(非課税)
・乙欄(サブ先) :税額表により所得税は約3%以上の税率で強制天引き
-> サブ先では、どんなに少額のバイト代でも最初から所得税が引かれます
【現場のリアル】乙欄で引かれた高い税金に驚いた話
平日は事務職、土日はカフェでアルバイトという生活を始めたばかりの方の話です。初めて受け取ったカフェの給与明細を見て、額面が2万円台にもかかわらず所得税が数百円単位で引かれていることに違和感を覚え、「学生時代のバイトでは月8万円くらいまで税金なんて引かれなかったのに」とカフェの店長に確認したそうです。店長からは「掛け持ちの方は本業で扶養控除の申告をされているはずなので、こちらでは乙欄という区分で少し多めに引かせてもらっています」と説明を受けたものの、その場では正直ピンとこなかったといいます。あとから自分で調べて、乙欄は最初から一定の税率で機械的に引かれる区分で、年末調整の対象にもならないと分かり、「じゃあこの引かれすぎた分は結局どうなるのか」という新たな疑問が生まれ、確定申告で戻ってくると知って初めて安心できた、と振り返っていました。
3. 両方の会社に「扶養控除等申告書」を出すとどうなるか

「両方の会社から書類を出せと言われたから、何も考えずに2社ともに提出してしまった」という掛け持ちワーカーは毎年一定数発生しますが、これは避けるべき対応です。
【二重提出をした場合に起きること】
1. 2社両方があなたを「甲欄(メイン)」として税金を安く計算し、年末調整を実施する
▼
2. それぞれの会社は、給与支払報告書を従業員の住所地の市区町村へ提出する
▼
3. 同一人物について2社分の基礎控除・扶養控除が重複して計上されている状態となり、
税務署・市区町村側の突合作業で不自然な申告として把握される
▼
4. サブの会社へ「扶養控除の重複に関する是正」の連絡が入り、
過去の税額が乙欄税率で再計算されて追徴が発生する
サブの会社から年末調整の用紙を渡されたら、「別の会社で提出しているため、こちらは乙欄でお願いします」とはっきり伝えて提出を辞退するのが、二重提出のトラブルを避ける一番確実な方法です。
4. サブ先にはどう伝えればいい?気まずくならない言い方
Wワークをしている人が一番不安に感じるのは、税金の仕組みそのものより「サブ先にどう説明すればいいのか」という対人関係の部分です。ここは具体的に整理しておきます。
サブ先の担当者や店長から扶養控除等申告書を渡されたら、次のように伝えれば十分です。
【サブ先への伝え方の例】
「本業(または別のアルバイト先)で扶養控除等申告書を提出しているので、
こちらでは提出できません。乙欄で処理していただければ大丈夫です」
これだけで、担当者側は「甲欄ではなく乙欄で計算すればよい」と正しく理解できます。会社側が「両方に出してもらわないと困る」「うちにも出してください」と言ってきた場合でも、法律上、扶養控除等申告書は1社にしか提出できないため、押し切られる必要はありません。
「Wワークをしていることがサブ先にバレるのでは」と心配する声もありますが、乙欄で処理してもらうこと自体は、掛け持ちをしていると明言せずとも「他で提出済みです」という一言だけで完結します。サブ先が本業の会社名や勤務先の詳細を聞いてくることは通常なく、乙欄の処理に必要なのは「甲欄では処理できない」という事実だけです。
反対に、サブ先に何も伝えないまま扶養控除等申告書の提出を拒み続けると、担当者から「なぜ出さないのか」と繰り返し聞かれることになりかねません。最初の一言で「他社で提出済み」と伝えておけば、以降のやり取りはスムーズになります。
【現場のリアル】サブ先の店長に「乙欄でお願いします」と伝えるまでに1週間迷った話
介護施設で正社員として働きながら、近所のコンビニで週2回だけ夜勤バイトを始めた方の話です。コンビニのオーナーから「うちでも年末調整するから書類出してね」と言われたものの、「掛け持ちしていることを知られたくない」「なんだか断りづらい」という気持ちが先に立ち、1週間ほど返事を先延ばしにしてしまったそうです。結局、シフトの休憩中に思い切って「本業の方で扶養控除の書類を出しているので、こちらは出せないんです。乙欄で処理していただけますか」とだけ伝えたところ、オーナーからは「ああ、掛け持ちの子はよくいるからそれで大丈夫だよ」とあっさり返され、拍子抜けしたといいます。「掛け持ちであること自体を根掘り葉掘り聞かれるかと思っていたら、税金の区分の話だけで終わった」というのが本人の感想でした。一言のテンプレートさえ用意しておけば、身構えていたほどの気まずさは実際には起きにくいということが分かるエピソードです。
5. Wワークの人は年明けの確定申告で税金を取り戻せる

メインの会社で年末調整が終わった後、掛け持ちワーカーの多くには「2社分の給与を合算して確定申告を行う」対応が必要になります。国税庁は、給与所得者のうち確定申告が必要になる人の条件を次のように示しています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」では、確定申告が必要な人の一つとして次のように説明されています。
『給与を2か所以上から受けていて、かつ、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整されなかった給与の収入金額と、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)との合計額が20万円を超える人』
出典:国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
つまり、サブ先(乙欄・年末調整未実施)の年収が20万円を超えている場合は確定申告の義務があります。20万円以下であれば所得税の確定申告義務そのものは発生しませんが、サブ先で乙欄の税金を天引きされ続けているなら、確定申告をした方が払いすぎた税金が戻ってくるため、実務上は申告した方が得になるケースがほとんどです。
【確定申告を行う3ステップ】
ステップ1: 12月〜1月に、メインの会社から「甲欄の源泉徴収票」、
サブの会社から「乙欄の源泉徴収票」を受け取る(計2枚)
ステップ2: 2月16日〜3月15日に、2枚の源泉徴収票の内容を使って確定申告書を作成する
ステップ3: サブの会社で高めに引かれていた乙欄の所得税が合算のうえ再計算され、
払いすぎていた分が銀行口座へ還付される
6. 【シミュレーション】確定申告で税金が戻る人と払う人の違い
メイン先とサブ先の給与バランスによって、確定申告後に税金が戻るか、逆に追加納付になるかが分かれます。
| メイン先給与 | サブ先給与(乙欄天引き) | 確定申告の結果 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 50万円(乙欄税金5万円引) | 約3万円の還付 | サブ先で引かれすぎていた税金が、合算後の税率より高かったため |
| 500万円 | 150万円(乙欄税金10万円引) | 約2万円の追加納税 | 合算年収650万円となり、より高い税率区分に達したため |
| 100万円 | 30万円(乙欄税金2万円引) | 約2万円の全額還付 | 合算年収130万円以下で、基礎控除等の枠内に収まったため |
年収バランスによって結果は変わりますが、乙欄の天引き額は本来より高めに設定されているため、確定申告をして損をすることは基本的にありません。
7. よくある質問(Q&A)
Q1. サブのバイト先が「年末調整の用紙を出さないと給料を払わない」と言ってきます。
「他の会社に提出済みなので乙欄で処理してください」と伝えるのが正しい対応です。会社側が扶養控除等申告書の提出を給料支払いの条件にすることはできませんので、落ち着いて事情を伝えましょう。
Q2. サブのバイト代が年間20万円以下の場合でも確定申告は必要ですか。
所得税の確定申告義務そのものは発生しません。ただし、サブ先で乙欄の税金を引かれているなら、確定申告をすれば戻ってくる可能性が高いため、義務がなくても申告した方が得になります(なお、所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告は別途必要になることがあります)。
Q3. Wワークをしていることがサブ先や本業の会社にバレることはありますか。
サブ先には「他社で扶養控除等申告書を提出済み」と伝えるだけで乙欄の処理が完了するため、それ自体で掛け持ちが伝わるわけではありません。一方、2社両方に扶養控除等申告書を提出してしまうと、給与支払報告書の突合によって重複が把握され、会社側に是正の連絡が入る形で発覚します。バレる原因になるのは「掛け持ちそのもの」ではなく「二重提出」である点を押さえておくと安心です。
まとめ:メイン1社で年末調整し、確定申告で税金を取り戻す
年末調整ができるのは、最も収入が多い「メインの1社(甲欄)」のみです。サブの会社(乙欄)には扶養控除等申告書を出すことができず、2社両方に出してしまうと、給与支払報告書の突合を通じて重複が発覚し、会社に是正の連絡が入ります。サブ先で引かれた高めの税金は、年明けの確定申告で2社分を合算して申告すれば取り戻せます。
Wワークの税金ルールを正しく理解して、サブ先には一言で事情を伝え、払いすぎた税金は確定申告で確実に取り戻しましょう。年末調整の手続きをスマホで迷わず進めたい方は、完全無料で使える『書けた年末調整』をご利用ください。
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