前職の源泉徴収票が手元に届かない時は、まず前職へ書面(メールか郵便)で再請求し、応じてもらえなければ所轄税務署へ「源泉徴収票不交付の届出書」を提出すれば、会社は所得税法上の交付義務を履行するよう税務指導を受けます。それでも締め切りに間に合わない場合は、今の会社の年末調整を待たず、自分で確定申告をすれば還付金も含めて解決できます。
「前の会社に連絡したのに源泉徴収票を送ってくれない」
「揉めて辞めたから連絡したくない、でも今の会社の年末調整の締め切りに間に合わない」
中途入社したサラリーマンを悩ませる代表的なトラブルです。退職時の手続き漏れで単に送られてこないケースから、前職の会社が倒産してしまったケース、さらには揉めて退職したために発行を渋られるケースまで、事情はさまざまですが、対処の道筋ははっきり決まっています。
この記事では、前職から源泉徴収票を取り寄せるための請求メール文面から、税務署を動かす「源泉徴収票不交付の届出書」の使い方、前職が倒産した場合の対処法、そして年明けの確定申告手順まで、根拠となる条文と実際にあったやり取りを交えて整理しました。
1. 大前提:会社が源泉徴収票を出さないのは法律違反にあたる

会社が退職者へ源泉徴収票を交付しないことは、所得税法第226条が定める法律上の義務への違反であり、悪質な場合は同法第242条の罰則対象になります。
所得税法第226条の交付義務と第242条の罰則
所得税法第226条は退職日から1ヶ月以内の交付を、第242条は違反時に1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
所得税法第226条第1項は、次のように交付義務を定めています(条文の一部を抜粋)。
『(前略)給与等の支払をする者は、(中略)その年の翌年1月31日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後1月以内)に、源泉徴収票二通を作成し、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない』
出典:所得税法第226条第1項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
【国税庁の公式見解・1次情報】
この交付義務に違反した場合の罰則は、所得税法第242条第6号に次のように定められています(条文の一部を抜粋)。
『(前略)第226条第1項から第3項までに規定する源泉徴収票をこれらの書類の交付の期限までにこれらの規定に規定する支払を受ける者に交付せず、若しくはこれらの書類に偽りの記載をして当該支払を受ける者に交付した者』は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する
出典:所得税法第242条第6号(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
※令和4年法律第67号(刑法等の一部を改正する法律)にもとづき、令和7年6月1日以降は「懲役」の呼称が「拘禁刑」に統一されています。
条文を整理すると、次の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ① 交付期限(第226条) | 退職した日から1ヶ月以内に退職者へ交付 |
| ② 違反時の罰則(第242条) | 交付を拒否・怠った場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
「喧嘩別れしたから」「退職代行を使って辞めたから」といった個人的な事情を理由に源泉徴収票の発行を拒むことは、条文上、明確な違法行為にあたります。
揉めて退職した場合でも会社の交付義務は変わらない
パワハラや退職代行を使った退職など、トラブルを抱えて辞めた場合でも、会社の交付義務は一切軽減されません。感情的なわだかまりと、法律上の事務手続きはまったく別の話です。
#### 【現場のリアル】揉めて辞めた会社に電話するのが怖くて、3週間も放置してしまった話
パワハラが理由で退職代行サービスを使って会社を辞めた方から聞いた話です。11月中旬の夜、自宅のワンルームで年末調整の案内メールを開いた瞬間、前職の源泉徴収票が必要だと分かっていながら、前の上司の怒鳴り声を思い出すだけで手が震え、電話はおろかメールの一文すら打てない状態が3週間近く続いたそうです。
結局、深夜0時近くにスマホで退職代行会社とのLINEを開き、「あの時の電話番号で、退職後の書類請求も対応してもらえますか」と相談したところ、追加費用なしで源泉徴収票の請求も代行してもらえることが分かりました。本人が直接連絡を取ることなく、2週間ほどで自宅のポストに源泉徴収票の入った封筒が届いたといいます。「前の会社と一切話さなくていいと分かった瞬間、肩の力がどっと抜けた」と振り返っていました。
2. 前職の会社へ送る「源泉徴収票・再請求メール文面」
源泉徴収票の再請求は、電話より記録に残るメールか書面で行うのが基本です。件名に「至急」、本文に退職時期・締切日・送付先住所を明記すれば、担当者が迷わず対応できます。
請求メールのテンプレート(コピペ可)
このテンプレートは氏名・退職時期・送付先住所・締切日の4項目を書き換えるだけで、そのまま前職の総務担当者へ送れる文面です。
件名:【至急】源泉徴収票の発行および送付のお願い(氏名:山田 太郎)
〇〇株式会社 総務部(人事部)ご担当者様
お疲れ様です。〇年〇月に退職いたしました、山田 太郎と申します。
現在の勤務先において年末調整の手続きを行っており、
前職での源泉徴収票の提出を求められております。
大変恐縮ではございますが、私の「令和〇年分 給与所得の源泉徴収票」を
至急作成いただき、下記住所までご郵送いただけますでしょうか。
【送付先住所】
〒123-4567 東京都新宿区〇〇1-2-3
山田 太郎 宛
提出締め切りが【〇月〇日】と迫っておりますため、
可能な限り速やかにご手配いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
3. 前職が発行を拒否する場合の「源泉徴収票不交付の届出書」

電話やメールを無視された場合は、前職の所轄税務署へ「源泉徴収票不交付の届出書」を提出すれば、税務署から会社へ是正指導が入ります。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「F5-4 源泉徴収票不交付の届出手続」のページでは、この手続きについて案内があります。給与等の支払を受ける者が源泉徴収票の交付を受けられない場合、届出書を作成し、給与明細書等の写しがあればそれを添付のうえ、源泉徴収票を交付しない給与の支払者の所轄税務署長へ提出することで、随時この届け出を行うことができるとされています。
出典:国税庁「F5-4 源泉徴収票不交付の届出手続」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100017.htm
届出書提出から会社の対応が変わるまでの3ステップ
届出書の提出は、記入、給与明細の添付、税務署への提出という3ステップで完了します。
- 最寄りの税務署へ行く、または国税庁のサイトから様式をダウンロードし、「源泉徴収票不交付の届出書」に記入する
- 退職時の給与明細書のコピーを添付して税務署へ提出する
- 税務署から前職の会社へ税務指導(是正を求める連絡)が入る
届出書が受理され、税務署から前職の会社へ連絡が入ると、多くの場合、会社側は速やかに源泉徴収票を発行してくることになります。
#### 【現場のリアル】「税務署に届出書を出す」と伝えた瞬間、態度が変わった話
小さな広告代理店を退職した方の話です。総務担当者に何度メールを送っても「確認します」の一点張りで、2ヶ月近く源泉徴収票が届かない状態が続きました。
年末調整の締め切りまで残り1週間となった土曜の午後、自宅のダイニングテーブルで国税庁のサイトから「源泉徴収票不交付の届出書」の様式をダウンロードし、記入を終えたところで、念のため最後にもう一度だけ会社へ連絡を入れたそうです。「〇月〇日までにいただけない場合は、税務署へ不交付の届出書を提出します」と事実だけを淡々と伝えたところ、その2日後の夕方、源泉徴収票がPDFでメールに添付されて届いたといいます。
実際に税務署へ足を運ぶ前に、届出書を用意していること自体を伝えるだけで状況が動くこともある、という実例です。
4. 前職の会社が「倒産・夜逃げ」して連絡がつかない場合の対処法
前職がすでに倒産・廃業している場合は、源泉徴収票がなくても給与明細を集計すれば確定申告できます。
給与明細から確定申告する2ステップ
源泉徴収票がなくても、給与明細を月ごとに集計して税務署の窓口へ持ち込めば、その場で確定申告を受け付けてもらえます。
- 給与明細書を全月分そろえ、総支給額・社会保険料・源泉徴収税額を月ごとに集計する
- 税務署の窓口へ行き、前職が倒産して源泉徴収票が取得できない旨を説明し、集計した給与明細をもとに確定申告を受け付けてもらう
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「国税関係手続が簡素化されました」のページによれば、平成31年4月1日以後に提出する確定申告書からは、給与所得の源泉徴収票をはじめとする各種源泉徴収票を申告書に添付すること自体が原則不要になっています。ただし記載内容の裏付けとして給与明細や通帳の保管は引き続き必要です。
出典:国税庁「国税関係手続が簡素化されました」 https://www.nta.go.jp/information/other/tetuzuki_kansoka/index.htm
5. 今の会社の締め切りを乗り切る「年末調整除外から確定申告」への流れ

前職の源泉徴収票が間に合わない時は、今の会社の年末調整を諦め、2月16日以降にスマホのe-Taxで確定申告すれば、還付額が減ることはありません。
年末調整をスキップして確定申告に切り替える3ステップ
やるべきことは、今の会社への一言の申し出、前職なしでの年末調整、そして2月16日以降の確定申告という3段階だけです。
- 今の会社の人事部に「前職の源泉徴収票が間に合わないため、今年は自分で確定申告します」と伝える
- 今の会社では「前職なし(年末調整未済)」として処理してもらい、12月に今の会社の源泉徴収票を受け取る
- 年明け2月16日以降に、前職から届いた源泉徴収票と今の会社の源泉徴収票の2枚を持ってスマホe-Taxで確定申告する
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」では、給与所得者であっても一定の条件に該当する場合は自身で確定申告を行う必要があると整理されています。前職の源泉徴収票が年末調整に間に合わず自分で確定申告を行う場合も、この一般的な確定申告の枠組みに沿って手続きを進めることになります。
出典:国税庁タックスアンサー「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
確定申告を行えば、年末調整と同じように払いすぎた税金は口座へ還付されるため、対応が遅れたこと自体による金銭的な損失は基本的にありません。
#### 【現場のリアル】人事部に「自分で確定申告します」と言い出すまでが一番緊張した話
転職して数ヶ月の方から聞いた話です。前職の源泉徴収票がどうしても間に合わないと分かった時、今の会社の人事担当者に何と説明すればいいのか分からず、締め切り前日の夜11時、誰もいないオフィスの自席で「言い出しづらくて、メールの下書きを消しては書き直していた」といいます。
翌朝、人事部の窓口に恐る恐る足を運んで伝えてみると、担当者からは「よくあることなので大丈夫ですよ、前職なしで年末調整を進めておきますね」とあっさり返答があり、拍子抜けしたそうです。担当者いわく、源泉徴収票が間に合わない社員は毎年一定数いるため、会社側にとっては珍しい相談ではなく、むしろ黙って未記入のまま提出されるほうが後の確認作業が大変になる、とのことでした。
6. よくある質問(Q&A)
読者からの質問で特に多いのは、退職代行を使った場合の連絡方法と、PDFデータのまま提出できるかの2点です。この章ではこの2つを中心に回答します。
源泉徴収票の請求・提出に関する質問
前職に直接連絡せずに済ませる方法は退職代行業者経由か郵便での請求であり、電子データでの提出可否は会社の年末調整システムが電子化されているかどうかで決まります。
#### Q1. 退職代行を使って辞めたのですが、前職に直接連絡しなければいけませんか。
退職代行業者を経由して請求してもらうか、会社宛てに郵便(手紙)で請求すれば、直接話す必要はありません。前述の通り、退職代行会社によっては書類請求まで対応してくれる場合があるため、まずは利用したサービスに確認してみるのがおすすめです。
#### Q2. 源泉徴収票のPDFデータをメールで送ってもらった場合、それを印刷して提出できますか。
会社の年末調整システムが電子化されていればPDFのまま提出できますが、紙提出の会社の場合は原本の郵送を依頼してください。
7. 悪質な会社へ送る「源泉徴収票交付請求書」(内容証明郵便)の書き方
電話や普通郵便を無視する悪質なケースでは、内容証明郵便で「7日以内に交付しなければ税務署へ届出書を提出する」と通告するのが有効です。
内容証明郵便の文例
この文例は日付・退職日の2箇所を書き換えるだけで、郵便局の内容証明郵便としてそのまま提出できます。
【源泉徴収票交付請求書(内容証明見本)】
冠省
私は、貴社を令和〇年〇月〇日に退職いたしましたが、所得税法第226条に定める
退職後1ヶ月以内の源泉徴収票の交付を受けておりません。
つきましては、本状到達後7日以内に、下記住所宛てに「給与所得の源泉徴収票」を
送付いただくよう請求いたします。
期日内にご対応いただけない場合は、所轄税務署長へ「源泉徴収票不交付の届出書」を
提出し、所要の是正措置を求める手続きに入りますのでご承知おきください。
草々
8. 税務署の無料相談を利用する
前職と連絡が取れない場合は、毎年2月16日から全国の税務署に開設される確定申告無料相談会場へ、給与明細と預金通帳を持参すれば、その場で申告書を作成してもらえます。
相談会場を利用する際の持ち物と流れ
持ち物は、手元にある全月分の給与明細書と、給与が振り込まれていた銀行通帳の2点です。会場ではこれをもとに国税調査官が聞き取りを行い、その場で確定申告書を作成してくれます。
#### 【現場のリアル】通帳と給与明細だけを抱えて相談会場に駆け込んだ話
前職が半年前に倒産していたという方の話です。源泉徴収票を取り寄せようにも会社自体がもう存在せず、どこに何を聞けばいいのか分からないまま2月中旬を迎えてしまいました。
藁にもすがる思いで開場時刻の8時30分に合わせて最寄りの税務署の確定申告相談会場へ並び、窓口で「前の会社が潰れてしまって、源泉徴収票がないんです」と伝えたところ、担当者から「給与明細と通帳の入金履歴があれば大丈夫ですよ」と言われ、その場で一緒に金額を確認しながら1時間ほどで申告書を仕上げてもらえたそうです。事前に何の準備もしていなかったため半分あきらめていたが、思っていたよりずっとスムーズに終わった、と話していました。
まとめ:前職の源泉徴収票トラブルは法律と確定申告で解決できる
前職の源泉徴収票トラブルは、法律に基づいた請求と確定申告の手続きを組み合わせれば、必ず解決できる問題です。
会社が源泉徴収票を出さないのは所得税法第226条に違反する行為にあたります。まずはメールや手紙で丁寧に請求し、拒否されたら税務署へ「源泉徴収票不交付の届出書」を提出して税務指導を入れてもらいます。それでも間に合わない場合は、今の会社の年末調整をスキップし、年明けに確定申告をすれば解決できます。
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