「実家で年金暮らしをしている両親がいるが、離れて暮らしていても年末調整の扶養に入れられるのか」
「同居している親と、実家で一人暮らしをしている親とでは、控除額はどれくらい違うのか」
「仕送りをしていることを、会社や税務署にどうやって証明すればいいのか」
親の扶養控除は、配偶者控除や住宅ローン控除と並んで年末調整のインパクトが大きい所得控除のひとつですが、別居していても対象になることを知らずに見送っている会社員は少なくありません。ここでは、国税庁の一次情報にもとづいて、控除額の区分から仕送りの実務、申告書の書き方までを整理します。
1. 親の年齢・同居別居別の控除額

【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1180 扶養控除」では、控除対象扶養親族とは、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人と定められています。このうち70歳以上の人は「老人扶養親族」に区分され、納税者またはその配偶者の直系尊属で同居を常況としている場合は「同居老親等」として58万円、それ以外の老人扶養親族は48万円が控除額になります。
出典:国税庁 タックスアンサー No.1180「扶養控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
判定基準は、子どもの扶養控除と同じくその年12月31日時点の満年齢です。控除額を同居・別居の区分ごとに整理すると次のとおりです。
| 親の年齢区分 | 同居・別居の区分 | 扶養の区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
|---|---|---|---|---|
| 70歳以上 | 同居 | 同居老親等 | 58万円 | 45万円 |
| 70歳以上 | 別居(実家暮らし等) | 老人扶養親族 | 48万円 | 38万円 |
| 65歳〜69歳 | 同居・別居問わず | 一般の扶養親族 | 38万円 | 33万円 |
年収600万円の会社員(所得税率10パーセント程度、住民税率10パーセント)が70歳以上の親を1人扶養に入れた場合、別居なら年間8万6千円前後、同居なら10万3千円前後の税負担軽減になります。両親2人を同時に別居の老人扶養親族として申告すれば、所得税の控除額は48万円かける2人分で96万円、住民税は38万円かける2人分で76万円になり、税率10パーセントの世帯では年間およそ17万2千円の減税効果です。年収800万円で税率30パーセント程度の世帯であれば、年間約26万4千円の手取り増になる計算です。税率は所得によって変わるため、正確な金額は源泉徴収票や住民税決定通知書と照らし合わせて確認してください。
2. 親を扶養に入れるための3つの条件
親を年末調整で扶養親族にするには、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。
まず年齢要件です。その年12月31日時点で16歳以上であること。70歳以上であれば老人扶養親族として控除額が加算されます。次に所得要件で、親の年間合計所得金額が58万円以下であることが条件です。この所得要件は令和7年度税制改正により、それまでの48万円以下から引き上げられました。国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」に、扶養親族等の合計所得金額要件が令和7年分以後58万円以下となる旨が明記されています。出典:https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm 最後に生計要件で、同居しているか、別居であっても定期的な仕送りなどで生活費や療養費の負担を継続していて「生計を一にする」関係が認められることが必要です。
同居していれば生計要件は基本的に問題になりませんが、別居の場合はこの生計要件をどう証明するかが実務上いちばんの論点になります。
3. 年金収入の壁。いくらまでなら扶養に入れられるか

親が公的年金を受給している場合、所得58万円以下という要件を年金収入の額に置き換えるといくらになるのか、という質問が最も多く寄せられます。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1600 公的年金等の課税関係」では、公的年金等に係る雑所得の金額は、その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を差し引いて計算するとされています。公的年金等控除額は受給者の年齢によって異なり、65歳以上の人は最低110万円、65歳未満の人は最低60万円が収入金額から差し引かれます(公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が1,000万円以下の場合)。
出典:国税庁 タックスアンサー No.1600「公的年金等の課税関係」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm
この控除額に、扶養親族の所得要件である58万円を足すと、年金収入だけで判定する場合の目安が出ます。65歳以上の親であれば、年間の年金収入が168万円以下(月額にするとおよそ14万円以下)であれば所得58万円以下となり、扶養に入れられます。65歳未満の親であれば、年間118万円以下(月額およそ9万8千円以下)が目安です。以前は所得要件が48万円だったため158万円・108万円という数字で紹介されていましたが、令和7年度税制改正以降はこの168万円・118万円が現行の基準になります。日本の国民年金は満額でも年額80万円台前半のため、国民年金のみを受給している親であれば、この基準を大きく下回るケースがほとんどです。
現場のリアル。年金だけのはずが、扶養が外れていた父親のケース
ある50代の会社員は、実家で年金暮らしをしている70代の母親を長年老人扶養親族として申告していました。ところが年明けに届いた住民税の決定通知書を見て、控除額が急に減っていることに気づきます。理由を確認すると、母親が近所のスーパーで週に数回、レジのパートを始めていたことが判明しました。年金収入は168万円以下に収まっていたものの、パート収入が加わったことで合計所得金額が58万円を超え、扶養親族の要件から外れていたのです。母親としては「小遣い稼ぎのつもりだった」パート収入が、息子の税金にはねかえっていたことになります。年金以外にわずかでも収入がある場合は、年金の額だけで判断せず、その年の合計所得金額を秋のうちに確認しておく必要があります。
4. 別居の親との「生計を一にする」を証明する仕送りの実務
別居している親を扶養に入れる場合、税務署から実態を問われたときに最も重視されるのが、本当に生活費を仕送りしているかという記録です。
仕送りは銀行振込か現金書留で行い、誰が、いつ、誰の口座へいくら送金したかが通帳の記帳や振込明細で客観的に残る形にしておきます。帰省したときに手渡しで現金を渡す方法は、記録が残らないため、後から生計同一を証明する場面で不利になります。頻度についても、年に一度のまとまった送金より、毎月あるいは2〜3か月に1回といった定期的な送金実績のほうが、生活費として継続的に負担している実態を示しやすくなります。金額に法律上の最低ラインは定められていませんが、実務上は月2万〜3万円程度、年間20万〜30万円以上を目安にしている家庭が多いようです。
会社への提出時点で送金証明書の添付が法律上必須とされているわけではありません。ただし、後日税務署から確認が入ったときに提示できるよう、振込明細や通帳は手元に保管しておくことをおすすめします。海外に住む親族を扶養控除の対象にする場合は事情が異なり、令和5年分以降の所得税では年38万円以上の送金証明書の提出が義務化されています。
5. 現場のリアル。兄弟で同じ親を二重に申告していた話

税法上、同じ親を扶養に入れられる子どもは1人だけです。兄弟姉妹がいる家庭では、この重複申告のトラブルが起こりがちです。
ある地方企業の総務担当者から聞いた話ですが、年末調整の書類を回収していたところ、同じ苗字と生年月日の親を、社内の別部署に勤める兄弟2人がそれぞれ扶養控除等申告書に記入しているのを見つけたことがあるそうです。連絡すると、兄弟のどちらも「自分が実家に仕送りしているから当然」と思い込んでいて、お互いが同じ親を申告していることを知らなかったといいます。結局、収入の高い兄のほうに一本化して申告し直すことになりましたが、もし別々の会社に勤めていて総務同士に接点がなければ、そのまま両方が控除を受けてしまい、後日税務署から是正を求められていた可能性があります。
親を扶養に入れる前提として、兄弟姉妹の間で誰が申告するかを毎年すり合わせておく必要があります。目安としては、所得税率が高い、つまり収入の多い人が扶養に入れたほうが、世帯全体で見た節税効果は大きくなります。たとえば年収800万円で税率30パーセント程度の長男が70歳以上の別居の親(48万円控除)を申告すれば年間14万4千円ほどの減税、年収400万円で税率15パーセント程度の次男が同じ親を申告すれば年間7万2千円ほどの減税にとどまります。誰が申告するかによって、家計全体の手取りは倍近く変わることになります。
6. 親を扶養に入れても医療費の窓口負担や介護保険料は変わらない
「息子の税金の扶養に入れたら、母の医療費の自己負担割合が1割から上がったり、介護保険料が高くなったりしないか」という不安の声もよく聞きます。
医療費の窓口負担割合は、後期高齢者医療制度や国民健康保険の被保険者本人の所得にもとづいて判定されます。介護保険料も同様に、本人の所得や年金収入で計算される仕組みです。子どもの税金の計算上「扶養親族」として申告することと、親自身が加入している医療・介護保険の制度上の扱いは別の仕組みで動いているため、税金の扶養に入れたこと自体を理由に窓口負担割合や保険料が上がることはありません。
7. 年末調整「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の書き方
会社から配られる「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」のうち、親を記入する箇所は用紙中段の「控除対象扶養親族(16歳以上)」欄です。氏名とフリガナ、マイナンバー、続柄(父または母)、生年月日、住所または居所を記入し、老人扶養親族に該当する場合はチェック欄で同居老親等かその他(別居)かを選びます。所得の見積額の欄には、年金収入から公的年金等控除額を差し引いた金額を書きます。たとえば年金収入150万円で65歳以上の親であれば、150万円から控除額110万円を差し引いた40万円が所得の見積額です。記入した所得の見積額が58万円を超えていないかどうかが、扶養に入れられるかどうかの実質的な判定ラインになります。
8. 親が介護施設に入所している場合の同居・別居判定
親が特別養護老人ホームや有料老人ホームに入所している場合、税法上は同居ではなく別居として扱われます。もともと自宅で同居していた親が施設に入所した場合であっても、それをもって「同居老親等」の扱いを維持できるわけではありません。ただし、施設利用料や生活費を子どもが負担・送金していれば、生計を一にする関係は認められるため、老人扶養親族(別居)としての控除は問題なく受けられます。同居老親等58万円と老人扶養親族48万円とでは控除額に10万円の差があるため、親が施設入所したタイミングでは、その年の申告書の記入区分を見直しておく必要があります。
9. 世帯年収別に見る、10年間の累計節税額
70歳以上の別居の親を扶養に入れた場合、10年間の長いスパンでどれだけの差が生まれるかを年収別に整理すると、次のようになります。
| あなたの給与年収 | 所得税率+住民税率の目安 | 親1人(別居老親48万円控除)の10年間節税額 | 親2人(別居老親96万円控除)の10年間節税額 |
|---|---|---|---|
| 年収400万円 | 15% | 約72万円 | 約144万円 |
| 年収600万円 | 20% | 約96万円 | 約192万円 |
| 年収800万円 | 30% | 約144万円 | 約288万円 |
| 年収1,000万円 | 33% | 約158万4千円 | 約316万8千円 |
| 年収1,200万円 | 43% | 約206万4千円 | 約412万8千円 |
税率はあくまで目安であり、実際の所得税率・住民税率は課税所得の水準によって変わります。正確な金額を知りたい場合は、源泉徴収票の課税所得金額から税率を確認してください。
10. よくある質問
母親は年金120万円、父親は年金250万円です。母親だけを扶養に入れられますか
入れられます。扶養控除は夫婦単位ではなく個人単位で判定されるため、父親の年金収入が基準を超えていても、母親の年金収入が168万円以下であれば母親だけを扶養控除の対象として申告できます。
会社に送金証明書(通帳のコピー)を提出する必要がありますか
国内に住んでいる親であれば、会社への通帳コピーの提出は法律上の義務ではありません。ただし、税務署から後日確認が入った際に提示できるよう、仕送りの振込明細や通帳は保管しておいてください。海外在住の親を扶養に入れる場合は、令和5年分以降、年38万円以上の送金証明書の提出が義務づけられています。
親の所得が58万円を1円でも超えたら、控除は全額なくなりますか
なくなります。扶養控除には配偶者特別控除のような段階的な逓減の仕組みがなく、合計所得金額が58万円を超えた時点で扶養親族の要件そのものを満たさなくなるため、控除額は0円になります。親にわずかでも他の収入がある場合は、年内に合計所得金額の見込みを確認しておくことが大切です。
まとめ
70歳以上の親を扶養に入れると、所得税の控除額は同居で58万円、別居で48万円になります。65歳以上の親であれば年金収入が168万円以下、65歳未満であれば118万円以下が扶養に入れられる目安です。この168万円・118万円は令和7年度税制改正で扶養親族の所得要件が48万円から58万円に引き上げられたことを反映した現行の基準で、以前の158万円・108万円という数字は令和6年分以前の旧基準にあたります。別居の場合は銀行振込などの仕送り実績を残しておくこと、兄弟姉妹がいる場合は誰が申告するかを毎年すり合わせておくことが、後々のトラブルを避けるポイントになります。
親の年金額や所得の見積額の計算、申告書のどこに何を書けばいいのかで迷ったときは、『書けた年末調整』を使えば、生年月日と年金収入の見込みを入力するだけで扶養控除の対象になるかどうかと控除額を自動で計算できます。手書きで悩む時間を減らして、正確に手続きを進めましょう。