年末調整の保険料控除申告書を書いていて、「配偶者控除38万円」という数字を見た瞬間に「税金が38万円安くなる」と思い込んでしまう人は少なくありません。実際に還付金の欄を見ると数万円しか増えていなくて、「あれ、計算間違ってるんじゃないか」と総務に問い合わせる。担当者も「控除額と還付額は別物なんですよ」とその都度説明する羽目になる。この行き違いが起きる理由は単純で、税金の世界には「所得控除」と「税額控除」という、名前は似ていても効き方がまったく違う二つの仕組みが混在しているからです。
生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、住宅ローン控除、ふるさと納税、配当控除。年末調整や確定申告の書類に登場する「〇〇控除」は、この二つのどちらかに分類されます。両者の違いを知らないまま数字だけ追いかけていると、住宅ローン控除の枠を余らせたまま確定申告を終えてしまったり、配当控除を使えば戻ってくるはずの税金を取りこぼしたりします。この記事では、国税庁のタックスアンサーに基づいて所得控除と税額控除の計算構造の違いを整理したうえで、全15種類の所得控除カタログ、住宅ローン控除をはじめとする税額控除の中身、年収別のインパクトまでを一通り押さえていきます。
1. 所得控除と税額控除は「引き算する場所」が違う

所得税の計算は、いきなり年収に税率を掛けるわけではありません。給与所得控除で経費相当分を引き、そこから所得控除を引いて課税所得を出し、税率を掛けたあとにもう一段階、税額控除という引き算が入ります。国税庁タックスアンサー「No.2260 所得税の税率」では、所得税額は課税総所得金額等に税率を乗じて計算する旨が示されており、この課税総所得金額を確定させる工程が所得控除、税率を掛けたあとの税額そのものから直接引く工程が税額控除にあたります。
【所得税が計算される4ステップと2大控除の位置】
[ステップ1] 額面年収 − 給与所得控除 = 給与所得
[ステップ2:所得控除がここで働く]
給与所得 −(基礎控除・配偶者控除・扶養控除・社会保険料控除・生命保険料控除など)
= 課税所得(税率を掛ける土台)
[ステップ3] 課税所得 × 所得税率(5%〜45%) − 速算控除額 = 算出所得税額
[ステップ4:税額控除がここで働く]
算出所得税額 −(住宅ローン控除・配当控除・外国税額控除など)
= 実際に納める所得税額
所得控除は「税率を掛ける前の土台」を削る仕組みなので、削った金額そのものが戻ってくるわけではなく、削った金額に自分の税率を掛けた分だけ税金が安くなります。税額控除は税率計算が終わったあとの「税金そのもの」から直接差し引かれるので、控除額がほぼそのまま還付や減税に直結します。
ひと目でわかる違い
| 比較項目 | 所得控除 | 税額控除 |
|---|---|---|
| 引く対象 | 税率を掛ける前の「所得」 | 計算後の「税額」そのもの |
| 減税効果 | 控除額×税率分だけ安くなる | 控除額がほぼそのまま引かれる |
| 手取りへの影響 | 税率次第(中程度) | 大きい |
| 代表例 | 基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、iDeCo(小規模企業共済等掛金控除) | 住宅ローン控除、ふるさと納税(住民税側)、配当控除、外国税額控除 |
| 主な手続き | 年末調整(一部は確定申告) | 年末調整(住宅ローン控除2年目以降)/確定申告 |
2. 同じ「38万円」でもここまで違う 節税額のシミュレーション
年収500万円(課税所得ベースで所得税率10%、住民税率10%と仮定)の会社員を例に、控除額38万円が所得控除か税額控除かでどれだけ差が出るか計算してみます。
所得控除38万円のケース(配偶者控除相当)では、所得税側は38万円に税率10%を掛けた3万8千円、住民税側は個人住民税の配偶者控除額(住民税は所得税と控除額が異なり33万円)に税率10%を掛けた3万3千円で、合計7万1千円が節税額になります。控除枠は38万円でも、実際にポケットに戻ってくるのは1割強という計算です。
一方、仮に税額控除で38万円分の枠があったとすると、算出所得税額から38万円がそのまま差し引かれます。年間の所得税額が15万円しかない人であれば所得税は全額ゼロになり、引ききれなかった残り23万円は翌年度の住民税から一定の上限まで差し引かれる仕組みです(この住民税側の控除は所得税とは別ルールで動きます。詳しくは4章で扱います)。同じ38万円という数字でも、所得控除としての節税額7万1千円に対して、税額控除であれば理論上5倍以上のインパクトになる計算です。
【現場のリアル】生命保険料控除12万円を「税金が12万円戻る」と勘違いした話
ある会社員は、保険料控除申告書に生命保険料控除の上限である12万円をきっちり書き込み、「今年は保険をたくさん払ったから12万円戻ってくるはずだ」と12月の給与明細を心待ちにしていました。ところが実際に振り込まれた還付金は2万円強。総務に「計算が間違っているのでは」と詰め寄ったところ、返ってきたのは「生命保険料控除は所得控除なので、12万円に税率を掛けた分しか戻りません」という説明でした。国税庁タックスアンサー「No.1140 生命保険料控除」によれば、新契約の生命保険料控除は一般生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料それぞれ最大4万円、合計で最大12万円が所得控除の対象になります(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1140.htm)。所得税率10%・住民税率10%の人であれば、12万円の控除に対する実際の節税額はおおよそ2万円台にとどまります。控除の上限額と、手元に戻る金額は別の数字だと知っているかどうかで、12月の給与明細を見たときの心境はまったく変わってきます。
3. 全15種類の「所得控除」完全カタログ

所得税法は、家族構成、健康状態、災害、社会貢献といった個人の事情に応じて税負担を調整するため、合計15種類の所得控除を用意しています。年末調整で申告できるものと、確定申告でしか使えないものに分けて整理します。数字は令和7年分以降の制度に基づくもので、いずれも国税庁タックスアンサーで確認済みです。
年末調整で申告できる所得控除(12種類)
| No | 名称 | 控除額・要件の概要 | 一次情報 |
|---|---|---|---|
| 1 | 基礎控除 | 合計所得金額に応じて段階的に決まる(132万円以下なら95万円、132万超336万円以下なら58万円、336万超489万円以下なら68万円、489万超655万円以下なら63万円、655万超2,350万円以下なら58万円、2,400万超2,450万円以下なら32万円、2,500万円超はゼロ) | No.1199 |
| 2 | 配偶者控除 | 配偶者の合計所得金額58万円以下(給与収入のみなら123万円以下)が対象。納税者本人の合計所得900万円以下なら38万円(老人控除対象配偶者は48万円)、900万超950万円以下なら26万円、950万超1,000万円以下なら13万円 | No.1191 |
| 3 | 配偶者特別控除 | 配偶者の合計所得金額58万円超133万円以下の範囲で、本人・配偶者双方の所得に応じて3万円〜38万円まで段階的に減っていく | No.1195 |
| 4 | 扶養控除 | 12月31日時点で16歳以上の親族等を扶養している場合。一般の控除対象扶養親族38万円、特定扶養親族(19歳以上23歳未満)63万円、老人扶養親族48万円、同居老親等58万円 | No.1180 |
| 5 | 社会保険料控除 | 健康保険、厚生年金、雇用保険、国民年金などの支払額の全額。上限なし | No.1130 |
| 6 | 小規模企業共済等掛金控除 | iDeCo(個人型確定拠出年金)や小規模企業共済の掛金の支払全額。上限なし | No.1135 |
| 7 | 生命保険料控除 | 一般生命保険・介護医療保険・個人年金保険それぞれ最大4万円(新契約)、合計最大12万円 | No.1140 |
| 8 | 地震保険料控除 | 地震保険料の支払額(最大5万円) | No.1145 |
| 9 | 障害者控除 | 障害者27万円、特別障害者40万円、同居特別障害者75万円 | No.1160 |
| 10 | 寡婦控除 | 夫と離婚・死別後、合計所得金額500万円以下で「ひとり親」に該当しない場合は27万円 | No.1170 |
| 11 | ひとり親控除 | 婚姻歴の有無を問わず、生計を一にする子(総所得48万円以下)がいて合計所得500万円以下の人は35万円 | No.1171 |
| 12 | 勤労学生控除 | 働きながら就学し、合計所得75万円以下かつ勤労以外の所得が10万円以下の学生は27万円 | No.1175 |
確定申告が必須となる所得控除(3種類)
以下の3つは会社の年末調整では処理できず、翌年2月16日から3月15日ごろの確定申告で自分で申告する必要があります。
| No | 名称 | 概要 | 一次情報 |
|---|---|---|---|
| 13 | 医療費控除 | 年間の自己負担医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の場合はその5%)を超えた場合、超えた部分(最大200万円)を控除 | No.1120 |
| 14 | 寄附金控除 | 国、自治体(ふるさと納税)、認定NPO法人等への寄附金について、支払額と総所得金額等の40%相当額のいずれか低い金額から2千円を差し引いた額 | No.1150 |
| 15 | 雑損控除 | 災害、盗難、横領による住宅・家財の損害について、損害額から保険金等を差し引いた金額を基準に計算 | No.1110 |
基礎控除の金額が「一律48万円」ではなく所得に応じた段階制になっているのは、令和7年度税制改正でいわゆる「年収の壁」の引き上げに合わせて基礎控除と給与所得控除の最低保障額が拡大されたためです。以前の記事や解説サイトを見て「基礎控除は48万円」と覚えている人は、その情報がすでに古くなっている可能性があります。申告する年の最新の金額は、必ず国税庁タックスアンサー「No.1199 基礎控除」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm)で確認してください。
【現場のリアル】扶養控除の年齢区分を勘違いして申告し直した話
大学3年生の子どもを扶養している会社員が、扶養控除等申告書に「一般の控除対象扶養親族」として記入し、38万円の控除で申告してしまったことがありました。国税庁タックスアンサー「No.1180 扶養控除」の要件では、その年の12月31日時点で19歳以上23歳未満の親族は「特定扶養親族」として63万円の控除対象になります(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm)。総務担当者が年齢を確認して指摘し、申告書を書き直して事なきを得ましたが、差額の25万円分の控除を危うく取りこぼすところでした。扶養親族の年齢は12月31日時点で判定されるため、誕生日をまたぐタイミングで区分が変わる家庭は特に確認が必要です。
4. 税額控除の中身と「引ききれなかった分」の行方
税額控除は、住宅購入や投資促進、二重課税の防止といった国の政策目的に沿って用意されている、限定的だが破壊力の大きい仕組みです。
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)
国税庁タックスアンサー「No.1211-1 住宅を新築等した場合(住宅借入金等特別控除)」によると、住宅ローン控除の控除率は年末残高の0.7%、控除期間は原則13年間です(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1211-1.htm)。ただし借入限度額と年間の控除上限額は、住宅の省エネ性能と入居年によって細かく分かれています。令和6年・7年入居の場合、認定長期優良住宅・認定低炭素住宅は借入限度額4,500万円(子育て世帯等の特例対象者は5,000万円)で年間控除限度額31万5千円(特例対象者は35万円)、ZEH水準省エネ住宅は借入限度額3,500万円で年間控除限度額24万5千円、省エネ基準適合住宅は借入限度額3,000万円で年間控除限度額21万円です。省エネ基準を満たさない「その他の住宅」は、令和5年12月31日までに建築確認を受けたものに限り借入限度額2,000万円・控除期間10年という経過措置があるのみで、それ以外は原則対象外になります。住宅ローン控除は改正が頻繁な制度なので、実際に申告する年の正確な限度額は、必ず国税庁の最新のタックスアンサーで確認してください。
1年目は確定申告が必須で、2年目以降は年末調整で会社を通じて手続きできます。所得税から引ききれなかった控除額は、翌年度の個人住民税から自動的に差し引かれます。この住民税側の控除は所得税額の5%(上限97,500円、令和4年以降入居の場合)が目安とされていますが、この上限額のルールは総務省が所管する地方税法の枠組みで定められているため、国税庁のタックスアンサーには明記されていません。年度によって取り扱いが変わることがあるため、正確な上限額は市区町村から届く住民税の通知や、お住まいの自治体の案内で確認するのが確実です。
ふるさと納税(寄附金控除・住民税側は税額控除)
自己負担2千円を除いた寄附金額が、所得税の所得控除と住民税の税額控除の組み合わせで戻ってくる仕組みです。ワンストップ特例を使わない場合や、寄附先が6自治体以上になった場合、あるいは医療費控除などで別途確定申告をする年は、寄附金分もまとめて確定申告に含める必要があります(国税庁タックスアンサー「No.1155 ふるさと納税(寄附金控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1155.htm)。
配当控除
国税庁タックスアンサー「No.1250 配当所得があるとき(配当控除)」によれば、確定申告で総合課税を選択した場合、課税総所得金額が1,000万円以下の部分に対応する配当所得は10%(証券投資信託の収益分配金は5%)、1,000万円を超える部分に対応する配当所得は5%(証券投資信託は2.5%)が所得税額から直接差し引かれます(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1250.htm)。申告分離課税を選んだ配当や、確定申告不要制度を選択した配当は対象外です。
外国税額控除
米国株の配当金などは、現地で源泉徴収されたうえで日本でも課税されるという二重課税が起きます。国税庁タックスアンサー「No.1240 外国税額控除」によると、居住者が外国で所得税に相当する税を納付した場合、その年分の所得税額に「調整国外所得金額÷所得総額」を掛けた控除限度額を上限として、外国所得税額を所得税額から直接差し引くことができます(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm)。控除しきれない部分がある場合は復興特別所得税からも一定額を控除できますが、いずれも限度額の範囲内である点には注意が必要です。
【現場のリアル】住宅ローン控除の枠を持て余して確定申告書を睨んだ話
新築の認定長期優良住宅を購入したある会社員は、初年度の控除額が年末残高の0.7%で30万円近くにのぼる一方、その年の所得税額は22万円程度しかありませんでした。税務署の相談窓口で「控除しきれない分はどうなるのか」と尋ねたところ、「翌年度の住民税から一定の上限まで自動的に差し引かれます。申告書に特別な記載は不要で、税務署から市区町村へ情報が回ります」という説明を受けたそうです。控除額が所得税額を上回ること自体は珍しくなく、慌てて配偶者控除を付け替えたり保険を解約したりする必要はありません。ただし、住民税側の控除には別途上限があるため、住宅ローンの借入額が大きい世帯ほど「控除枠を使い切れていない」状態になりやすい点は知っておいて損はありません。
5. 年収別・課税所得別の「所得控除の割引率」

所得控除の節税効果は、その人の課税所得によって変わります。日本の所得税は累進課税なので、税率区分が高くなるほど、同じ控除額でも節税インパクトは大きくなります。所得税の速算表は国税庁タックスアンサー「No.2260 所得税の税率」に基づいています(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)。
| 課税所得の区分 | 所得税率 | 住民税率 | 合計税率の目安 | 38万円の所得控除で浮く税金額 |
|---|---|---|---|---|
| 195万円以下(年収目安約300万) | 5% | 10% | 15% | 約57,000円 |
| 195万超330万円以下(年収目安約500万) | 10% | 10% | 20% | 約76,000円 |
| 330万超695万円以下(年収目安約800万) | 20% | 10% | 30% | 約114,000円 |
| 695万超900万円以下(年収目安約1,000万) | 23% | 10% | 33% | 約125,400円 |
| 900万超1,800万円以下(年収目安約1,500万) | 33% | 10% | 43% | 約163,400円 |
年収300万円の人が配偶者控除38万円を使うと税金は約5万7千円安くなりますが、同じ配偶者控除を年収1,500万円の人が使えたとすると(本人の合計所得が900万円を超えると配偶者控除自体が減額・消滅するため実際には成立しにくい仮定ですが)、税金は約16万3千円安くなる計算になります。所得控除は仕組み上、高所得者ほど1円あたりの節税効果が大きくなるという特徴を持っています。
6. 特定口座で株式投資をしている会社員が知っておきたい配当控除と外国税額控除
NISA以外の特定口座で日本株や米国株に投資している会社員にとって、配当控除と外国税額控除は見落とされがちな税額控除です。
日本株の配当金は、あらかじめ20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が源泉徴収されています。しかし課税所得が900万円以下程度の層であれば、確定申告で総合課税を選び配当控除を適用すると、源泉徴収されたままにしておくより手取りが増えるケースが多くなります。目安として、課税所得330万円以下の層は総合課税を選ぶと有利になりやすく、695万円以下でも有利になるケースが少なくありません。900万円を超えるあたりから申告分離課税や申告不要制度のほうが有利に転じやすいとされていますが、扶養控除や配偶者控除、社会保険料の算定基準など他の制度にも影響が及ぶため、実際にどちらが得かは個々の状況によって変わります。確定申告ソフトのシミュレーション機能などで試算してから判断するのが確実です。
米国株の配当金は、まず米国で10%源泉徴収され、その残りに日本国内で20.315%が課税される二重課税の状態になっています。外国税額控除を確定申告で申請すれば、米国で徴収された分に相当する税額を、控除限度額の範囲内で日本の所得税額から差し引くことができます。ただし、特定口座(源泉徴収あり)のままにしていると、この控除は自動では適用されません。確定申告をして初めて戻ってくる税金です。
【現場のリアル】特定口座に任せきりで外国税額控除を3年間放置していた話
米国の高配当ETFに毎月積み立てていたある会社員は、「特定口座の源泉徴収ありにしておけば確定申告は不要」という一般論を鵜呑みにして、3年間まったく確定申告をしていませんでした。たまたま同僚から「外国税額控除って知ってる?申告すれば米国で引かれた分が戻ってくるらしいよ」と聞き、慌てて過去分をさかのぼって確定申告をしたところ、3年分で数万円が還付されたそうです。特定口座の源泉徴収は「税務署に何もしなくていい」という意味であって、「それが一番得な選択」という意味ではありません。配当金がそれなりの額になってきたら、一度は確定申告した場合のシミュレーションをしてみる価値があります。
7. 年収別・控除フル活用の手取り増額シミュレーション
所得控除と税額控除を組み合わせて活用した場合、年間の手取りがどれくらい変わるかを試算したものです。住宅ローン控除の金額は前述の借入限度額の範囲内で、あくまで一例として設定しています。実際の控除額は借入残高や住宅の性能区分、入居年によって変わるため、目安として見てください。
| 額面年収 | 活用した控除の例 | 控除活用前の手取り目安 | 控除活用後の手取り目安 | 年間の節税・手取り増額目安 |
|---|---|---|---|---|
| 年収300万円(独身) | iDeCo(月2万円)+生命保険料控除+ふるさと納税3万円 | 約240万円 | 約248.5万円 | 約85,000円/年 |
| 年収500万円(配偶者あり) | 配偶者控除+iDeCo(月2万円)+生命保険料控除+地震保険料控除+住宅ローン控除20万円 | 約390万円 | 約424.8万円 | 約348,000円/年 |
| 年収800万円(子2人・高校生と大学生) | 特定扶養控除+一般扶養控除+iDeCo+生命保険料控除+住宅ローン控除28万円 | 約585万円 | 約638.2万円 | 約532,000円/年 |
| 年収1,000万円(持ち家・子あり) | 扶養控除+iDeCo+ふるさと納税17万円+住宅ローン控除31.5万円 | 約710万円 | 約775.6万円 | 約656,000円/年 |
同じ年収でも、使える控除を知っているかどうかで年間数万円から数十万円の差が生まれます。特に住宅ローン控除やiDeCoのように毎年繰り返し効いてくる控除は、13年、20年という単位で見ると数百万円規模の差になります。
8. 年末調整・確定申告で損をしないための考え方
控除額の大きい所得控除から優先して確実に埋めていくのが基本です。iDeCo(小規模企業共済等掛金控除)は年24万円から33万円程度の枠を上限まで使い切れる制度で、配偶者控除・扶養控除は最大63万円の枠、生命保険料控除と地震保険料控除を合わせても最大17万円の枠になります。控除証明書やマイナンバーの提出漏れで枠を丸ごと取りこぼす人は毎年一定数いるので、書類が届いたその日のうちに専用のファイルへまとめておくくらいの備えがちょうどいいところです。
住宅ローン控除のように控除額が大きい税額控除がある人は、所得税額を上回って引ききれない枠が出ていないかを確認してください。引ききれなかった分は自動的に翌年度の住民税から一定の上限まで差し引かれますが、それでも枠が余る場合は、共働き夫婦であればどちらの名義でローンを組むか、連帯債務にするかといった住宅取得前の設計の段階で検討しておく余地があります。
医療費控除、ふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合や6自治体以上に寄附した場合)、住宅ローン控除の初年度は、会社の年末調整では処理できません。1月から2月にかけて源泉徴収票を受け取ったら、e-Taxを使えばスマホからでも確定申告ができます。
9. よくある質問
生命保険料控除を上限の12万円まで申告すれば、還付金として12万円がそのまま戻ってくるのかという質問をよく受けますが、そうはなりません。生命保険料控除は所得控除なので、控除額12万円に自分の税率(所得税と住民税を合わせておおよそ15%から30%程度)を掛けた金額、つまり1万8千円から3万6千円程度が実際の節税額です。この行き違いは2章で紹介した体験談そのもので、控除の「枠」と実際に戻る「金額」は別物だと覚えておくだけで、12月の給与明細を見たときの落胆はだいぶ減らせます。
住宅ローン控除とふるさと納税を併用すると損をするのかという質問については、多くの場合は問題になりません。ワンストップ特例を使えば、ふるさと納税分は住民税から直接控除されるため、所得税側で完結する住宅ローン控除とは基本的に干渉しません。ただし医療費控除などの理由で確定申告をする年は、ふるさと納税分もまとめて所得税・住民税で計算し直すことになるため、控除の競合が起きていないか、確定申告ソフトのシミュレーション機能で試算しておくと安心です。
まとめ
所得控除は税率を掛ける前の所得から引かれるため、節税額は控除額に自分の税率を掛けた分にとどまります。税額控除は計算後の税金そのものから直接引かれるため、控除額のインパクトはそのまま手取りに跳ね返ります。年末調整では12種類の所得控除と、2年目以降の住宅ローン控除が申告できますが、医療費控除や住宅ローン控除の初年度、6自治体以上へのふるさと納税は自分で確定申告をしないと反映されません。
制度の根拠と控除額を正確に押さえておけば、還付金が思ったより少なくて肩を落としたり、控除の枠を余らせたまま確定申告を終えたりすることは減らせます。難しく感じる計算や書類作成は、便利なツールをうまく活用しながら、迷わず正確に手続きを進めていきましょう。