「私はひとり親控除と寡婦控除、どちらの対象になるのだろう」「未婚のシングルマザーだけど、控除は受けられるのか」。年末調整の書類を前にして、扶養控除等申告書の「C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」という欄でペンが止まる人は少なくありません。
ひとり親控除と寡婦控除は、どちらも一人で子どもや家族を支える人の税負担を軽くする制度ですが、対象になる条件は婚姻歴や性別、扶養する子どもの有無によって細かく分かれていて、会社から配られる書類の説明だけでは自分がどちらに当てはまるのか判断しづらいのが実情です。未婚か、離婚か、死別か。子どもを扶養しているかどうか。この組み合わせで、受けられる控除の種類も控除額も変わってきます。国税庁の一次情報に沿って、条件と申告書への記入方法を順に整理していきます。
1. ひとり親控除と寡婦控除の違い

まず、両者の違いを一覧で確認します。一番の違いは「婚姻歴(過去に結婚していたか)」と「性別」です。
| 項目 | ひとり親控除 | 寡婦控除 |
|---|---|---|
| 対象の性別 | 男女どちらも対象 | 女性のみ対象 |
| 婚姻歴(結婚したことがあるか) | 問わない(未婚でもOK) | 必須(離婚または死別など) |
| 扶養する子どもの有無 | 必須(生計を一にする子がいること) | 必須ではない(子以外の扶養親族がいればOKの場合も) |
| 控除額(所得税) | 35万円 | 27万円 |
| 所得制限 | 本人の合計所得金額が500万円以下 | 本人の合計所得金額が500万円以下 |
以前は未婚のシングルマザーやシングルファザーに対する制度上の手当てが薄く、婚姻歴のあるひとり親との間に扱いの差がありました。2020年分の所得税から新設された「ひとり親控除」により、婚姻歴を問わず、子どもを扶養している人であれば男女とも同じ35万円の控除を受けられるようになっています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1171 ひとり親控除」では、ひとり親の要件を次のように定めています。
『原則としてその年の12月31日の現況で、婚姻をしていないこと又は配偶者の生死の明らかでない一定の人のうち、次の三つの要件の全てに当てはまる人です。(1)その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと(2)生計を一にする子がいること(3)合計所得金額が500万円以下であること』
出典:国税庁 タックスアンサー No.1171「ひとり親控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1171.htm
2. ひとり親控除の対象になる条件
ひとり親控除は、次の3つの条件をすべて満たす人が対象です。性別や過去の結婚歴は関係ありません。
- 生計を一にする子がいること
子どもの総所得金額等が48万円以下(アルバイト等の収入のみなら年収103万円以下)であることが条件です。「生計を一にする」とは、同居しているか、離れて暮らしていても生活費や学費を仕送りしている状態を指します。
- 本人の合計所得金額が500万円以下であること
給与収入のみの場合、年収でおよそ677万円以下が目安です。
- 事実上婚姻関係と同様の事情にある人がいないこと
住民票に「未届の夫」「未届の妻」といった続柄の記載がある人がいない、つまり事実婚状態のパートナーがいないことが条件です。
この条件を満たしていれば、一律で35万円の所得控除を受けられます。未婚のシングルマザーやシングルファザーは、まずここに当てはまるか確認してください。
【現場のリアル】「独身」欄にチェックして終わっていた8年間
ある人材紹介会社で経理を担当していた方から聞いた話です。未婚で子どもを一人育てながら働く社員が、入社以来ずっと扶養控除等申告書の該当欄を空欄のまま提出していました。前職でも「結婚していないから控除は関係ない」と思い込み、誰にも相談せずに何年も放置していたそうです。あるとき年末調整の説明会で「婚姻歴がなくても、お子さんを扶養していればひとり親控除が使えます」という話を聞いて初めて自分が対象だったと気づき、経理担当に確認して翌年から控除を受けられるようになりました。年末調整は毎年12月31日時点の現況で判定されるため、過去に遡って会社が計算し直してくれるわけではありません。知らなかったで済まされない金額が、気づかないまま積み重なっていたケースです。
3. 寡婦控除の対象になる条件

寡婦控除は、女性だけを対象にした制度です。ひとり親控除の要件に当てはまらない女性のうち、次のいずれかの条件を満たす人が対象になります。
パターンA:離婚した女性
- 夫と離婚したあと、婚姻をしていない
- 子ども以外の扶養親族(親や兄弟姉妹など)がいる
- 本人の合計所得金額が500万円以下
- 事実婚状態のパートナーがいない
パターンB:夫と死別した女性・夫の生死が明らかでない女性
- 夫と死別したあと婚姻をしていない(または夫の生死が明らかでない)
- 本人の合計所得金額が500万円以下
- 事実婚状態のパートナーがいない
この場合、扶養親族の有無は問われません。
寡婦控除の対象になると、一律で27万円の所得控除を受けられます。子どもが独立して扶養から外れたが、高齢の親を扶養している離婚後の女性などは、ここに当てはまる可能性があります。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1170 寡婦控除」では、寡婦の定義を次のように示しています。
『原則としてその年の12月31日の現況で、次のいずれかに当てはまる人です。(1)夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいる人で、合計所得金額が500万円以下の人(2)夫と死別した後婚姻をしていない人又は夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下の人』
出典:国税庁 タックスアンサー No.1170「寡婦控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1170.htm
4. 年末調整での申告方法
自分がどちらかの控除に当てはまるとわかったら、次は年末調整での申告です。会社から配られる「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」という欄を使います。
- ひとり親控除の場合:「ひとり親」の四角い枠にチェックを入れます。
- 寡婦控除の場合:「寡婦」の四角い枠にチェックを入れます。
チェックを入れるだけで、税金が安くなるための手続きは完了します。国税庁タックスアンサー「No.2662 年末調整のしかた」にあるとおり、年末調整はこの申告書の内容をもとに会社が年間の税額を計算し直す仕組みなので、この欄への記入漏れがあると控除自体が反映されません。出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2662.htm
【現場のリアル】記入漏れに気づいたのは源泉徴収票をもらった後
ある企業の総務担当者いわく、寡婦・ひとり親欄のチェック漏れは年末調整のミスの中でも見つけにくい部類だそうです。所得税や社会保険料の欄と違って金額を書く欄ではなく、四角いチェックボックスひとつだけなので、他の記入項目に気を取られて素通りしてしまう人が毎年一定数いるといいます。ある社員は12月の給与明細で還付額が思ったより少ないことに気づき、総務に確認したところ「ひとり親控除の欄にチェックが入っていません」と言われ、そこで初めて自分が対象だったことを思い出したそうです。年末調整の期限をすでに過ぎていたため、その年は会社では訂正できず、翌年の確定申告(還付申告)で対応することになりました。総務側も一人ひとりの家庭事情を把握しているわけではないので、チェック漏れは提出前に自分で見返す以外に防ぐ方法がありません。
条件の確認や、手書きの申告書でのチェック漏れが不安な人は、『書けた年末調整』を使うとスマホで質問に答えるだけで手続きが進みます。「結婚歴はありますか」「お子さんの年齢は」といった質問に答えていくと、ひとり親控除と寡婦控除のどちらに該当するかをシステムが判定し、申告書を正確に作成してくれます。
無料で申告書を作成してみる5. よくある質問

Q. 子どもがアルバイトをしていて、年収が103万円を超えてしまったら?
A. 子どもの年収が103万円(総所得金額等が48万円)を超えると、ひとり親控除の対象となる「子」の条件から外れます。その場合、ひとり親控除は受けられなくなります。女性で離婚・死別などの条件を満たしていれば、寡婦控除に切り替わる可能性があります。
Q. 現在、離婚調停中で別居しています。ひとり親控除は受けられますか?
A. 年末調整は、その年の12月31日時点の現況で判断されます。12月31日の時点でまだ離婚が成立していない場合は、ひとり親にも寡婦にも該当しません。年内に成立するかどうかで、控除が受けられるかどうかが分かれます。
Q. ひとり親控除と寡婦控除は両方同時に受けられますか?
A. 同時には受けられません。両方の条件を満たす場合(夫と離婚したあと子どもを養っているなど)は、控除額の大きいひとり親控除(35万円)が優先して適用されます。
まとめ
ひとり親控除と寡婦控除の違いを整理すると、次のようになります。
- ひとり親控除(35万円):未婚・既婚(離婚や死別)を問わず、子どもを扶養している男女が対象(国税庁タックスアンサー No.1171)
- 寡婦控除(27万円):ひとり親控除に該当しない、離婚または死別した一定の女性が対象(国税庁タックスアンサー No.1170)
- 判定基準日はその年の12月31日。年の途中で状況が変わっても、この日の現況で決まる
条件に当てはまっているのにチェックを忘れると、納めすぎた税金がそのまま戻ってこなくなります。年末調整の書類を提出する前に、自分の状況がどちらに当てはまるか、一度立ち止まって確認してください。