「10月に入るとパート先のみんなが急に『これ以上シフト入れません』と言い出すのはなぜなのか」
「103万、106万、130万、結局今年は何万円までなら働いても大丈夫なのか」
毎年秋になると、スーパーやドラッグストア、飲食店の現場で決まって起きるのがパート主婦の働き控えです。店長から「人手が足りないから入ってほしい」と頼まれても、「これ以上働くと扶養から外れて手取りがかえって減るかもしれない」と断らざるを得ない人は少なくありません。
ただし、この「年収の壁」という言葉が指す中身は、ここ数年でかなり変わりました。令和7年度税制改正で所得税の基礎控除と給与所得控除が見直され、いわゆる103万円の壁は実質的に引き上げられています。社会保険については2024年10月に適用拡大が一段進み、さらに2025年6月に成立した年金制度改正法で、106万円の壁そのものを将来的に撤廃する方向が決まりました。ネット上には制度改正前の「103万」「106万」という古い数字のままの記事も多く残っているため、まずどこがどう変わったのかを一次情報で確認しておく必要があります。
この記事では、103万円の壁(所得税)は国税庁のタックスアンサー、106万円の壁(社会保険の適用拡大)は厚生労働省、130万円の壁(被扶養者認定基準)は日本年金機構と全国健康保険協会の公式情報にもとづいて、2026年8月時点で実際に有効な制度内容を整理しました。
1. 3つの壁は別々の制度だという前提を、まず整理する

103万円の壁、106万円の壁、130万円の壁は、まとめて語られがちですが、根拠となる法律も、判定方法も、超えたときに起きることも、それぞれ全く別物です。
103万円の壁は所得税の話で、妻本人に所得税がかかり始めるかどうか、そして夫が受けられる控除の種類が変わるかどうかのラインです。判定は1月1日から12月31日までの1年間に実際に支払われた給与の合計額で行われます。
106万円の壁と130万円の壁は、いずれも社会保険(健康保険・厚生年金保険)の話です。106万円の壁は、パート先の会社で厚生年金保険・健康保険に本人が加入するかどうかの基準で、判定は年間の実績ではなく、契約上の月額賃金という「これから先の見込み」で行われます。130万円の壁は、夫が加入する健康保険の被扶養者でいられるかどうかの基準で、こちらも同様に「今後1年間の見込み収入」で判定されるのが原則です。
この「税金は過去1年間の実績で判定、社会保険は今後の見込みで判定」という違いを取り違えると、年末に慌てて計算し直しても手遅れになることがあります。詳しくは4章で説明します。
4つの壁を金額・影響・判定方法で一覧にすると、次のとおりです。
| 壁の名称 | 基準となる金額 | 何に影響するか | 判定方法 | 2026年8月時点の状態 |
|---|---|---|---|---|
| 103万円の壁(妻本人の所得税) | 実質160万円 | 妻本人に所得税がかかり始めるか | 1〜12月の支給実績 | 令和7年分から適用中 |
| 103万円の壁(夫の配偶者控除) | 123万円 | 配偶者控除か配偶者特別控除かの切り替わり | 1〜12月の支給実績 | 令和7年分から適用中 |
| 106万円の壁 | 月額賃金8万8,000円(年106万円相当) | 本人が厚生年金・健康保険に加入するか | 契約上の月額賃金の見込み | 2026年8月時点で存続、将来撤廃方向 |
| 130万円の壁 | 130万円 | 夫の健康保険の被扶養者でいられるか | 今後1年間の見込み収入 | 現行のまま |
2. 103万円の壁は、今は実質「160万円」に変わっている
令和7年度税制改正により、所得税の基礎控除と給与所得控除の最低保障額がそれぞれ引き上げられ、パート収入だけの人が自分自身の所得税を心配しなくていいラインは、令和7年分(2025年分)以降、103万円から160万円に上がっています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1410 給与所得控除」では、給与等の収入金額190万円までの場合の給与所得控除額について次のように説明されています。
『給与等の収入金額が1,900,000円までの場合、給与所得控除額は650,000円』
また、この規定は『令和7年12月1日に施行され、令和7年分から適用される』とされています。
出典:国税庁「No.1410 給与所得控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
改正前の給与所得控除の最低保障額は55万円でしたので、10万円引き上げられたことになります。これに加えて、基礎控除についても合計所得金額132万円以下の人(給与収入のみならおおむね190万円以下の人が該当する層)を対象に、令和7年分から48万円から95万円へと大きく引き上げられました。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」では、合計所得金額132万円以下の場合の基礎控除額が『95万円』になると案内されています。あわせて『令和7年分以後の所得税について適用する』ことが明記されています。
出典:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
給与所得控除の65万円と、基礎控除の95万円を足すと160万円になります。この合計所得132万円以下の層に対する95万円の基礎控除は、令和9年分以降も存続する扱いになっているため、パート収入で年間132万円前後までに収まる人にとっては、この160万円という非課税ラインは一時的な優遇ではなく、当面続く基準として考えて差し支えありません。
妻本人の非課税ラインと、夫の配偶者控除のラインは別物
ここで注意が必要なのは、妻本人が所得税を払わずに済むラインが160万円になった一方で、夫が「配偶者控除」という名前の控除を満額受けられるラインは123万円のままだという点です。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1191 配偶者控除」では、控除の対象となる配偶者の要件として、給与収入のみの場合は『年間の給与収入が123万円以下』であることが挙げられています。この基準は令和7年分から適用されます。
出典:国税庁「No.1191 配偶者控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm
一見すると「123万円を超えたら夫の控除が減るのでは」と心配になりますが、実際には123万円を超えた分は「配偶者特別控除」という別の名前の控除に切り替わるだけで、控除額は据え置かれます。配偶者特別控除は、配偶者の給与収入が160万円までであれば配偶者控除と同じ満額(納税者本人の所得が900万円以下なら38万円)が受けられ、160万円を超えたところから段階的に減っていき、201万6千円を超えると受けられなくなります。つまり夫側の家計に実際の影響が出始めるのは123万円ではなく160万円からで、123万円というラインは控除の呼び名が変わるだけの、いわば書類上の境界線です。
#### 【現場のリアル】配偶者控除の「123万円」だけを見て、必要以上にシフトを削ってしまった話
ある年の秋、夫の会社から配られた年末調整の説明資料に「配偶者の給与収入123万円以下」という記載を見つけたパート主婦の方の話です。以前の103万円という数字が頭に残っていたところに、新しく123万円という数字が出てきたため、「これが新しい壁なんだ、絶対に超えてはいけない金額なんだ」と思い込み、その年の10月から急にシフトを週2回まで減らしてしまったそうです。年が明けて夫と一緒に確定申告書等作成コーナーの試算をしてみたところ、実は123万円を多少超えても、配偶者特別控除に切り替わるだけで夫の税負担はほとんど変わらないこと、本当に気にすべきラインは160万円だったことが分かり、「あの2か月分のシフト、削らなくてよかったんじゃないか」と夫婦で顔を見合わせたといいます。本人は「123万という数字だけがひとり歩きしていて、それが何の基準なのかを確認しないまま動いてしまった」と振り返っていました。年末調整の書類に新しい金額が出てきたときは、その数字が「妻本人の税金の話」なのか「夫の控除の名前が変わるだけの話」なのかを、まず区別して読む必要があります。
3. 106万円の壁、今の加入要件と、将来撤廃される予定の中身

106万円の壁は、パート先の会社で本人が厚生年金保険・健康保険に加入するかどうかの基準です。2024年10月の適用拡大で対象企業の範囲が広がり、現在は次の要件をすべて満たす短時間労働者が加入対象になります。
週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること、月額賃金が8万8,000円以上であること、2か月を超える雇用の見込みがあること、学生でないこと(夜間・定時制・休学中の学生は対象に含まれます)、そして勤務先の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が51人以上であることの5つです。月額賃金8万8,000円を年収に換算すると、およそ106万円になります。
この賃金要件について、厚生労働省は2025年6月に成立した年金制度改正法にもとづき、将来的に撤廃する方針を示しています。
【厚生労働省の公式見解・1次情報】
厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」では、次のように説明されています。
『いわゆる「年収106万円の壁」として意識されていた、月額8.8万円以上の要件を撤廃します』
撤廃の時期については、『撤廃の時期は、法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断します』と案内されています(最低賃金1,016円以上の地域で週20時間以上働くと、年額換算で約106万円となります)。
出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00021.html
つまり月額賃金要件の撤廃は「いつか必ず来る」ことは決まっていますが、正式な施行日はまだ確定しておらず、全国の最低賃金水準という条件が満たされて初めて判断されます。撤廃後も週20時間以上という労働時間要件は残るため、厚生労働省が示すとおり106万円という金額そのものを気にする局面はいずれ終わり、代わりに「週20時間働くかどうか」が主要な判定基準になっていく見通しです。とはいえ2026年8月の時点では月額8万8,000円という賃金要件はまだ生きている制度なので、今年の年末のシフト調整では引き続きこの基準を前提に考える必要があります。企業規模の要件についても、2024年10月に51人以上まで拡大されたあと、今後さらに段階的に縮小されていく方向が示されているため、自分の勤務先が現時点で対象企業に当たるかどうかは、給与担当者に確認しておくのが確実です。
なお、この賃金要件には通勤手当も含まれる点に注意が必要です。日本年金機構は、社会保険料の基準となる標準報酬月額の対象に通勤手当が含まれることを明らかにしています。
【日本年金機構の公式見解・1次情報】
日本年金機構「標準報酬月額の対象となる報酬に、通勤手当は含まれるのですか。」のFAQでは、通勤手当が標準報酬月額の算定対象となる報酬に含まれることが説明されています。
出典:日本年金機構 年金Q&A(標準報酬月額) https://www.nenkin.go.jp/section/faq/kounen/hyoujunhoushu/20140602-03.html
所得税の103万円(現行160万円)の計算では通勤手当(月15万円までの非課税分)は含めませんが、106万円の壁の月額賃金には含めて判定するため、遠方から通っていて通勤手当が多い人は、基本給だけで計算すると危険です。
【現場のリアル】106万円の壁と130万円の壁を混同して、突然扶養から外れてしまった話
長年130万円を意識してシフトを組んできた、あるパート先で働く方の話です。周囲の同僚たちが「うちは130万まで大丈夫」と言うのを聞いて、自分の勤務先も同じ基準だろうと思い込んでいたそうですが、実はその方の勤務先はその年の初めに従業員数が51人を超えたばかりで、106万円の壁の対象企業に切り替わっていたことに気づいていませんでした。月額賃金が8万8,000円を超える月が何か月か続いたところで、ある日突然、会社の総務から「厚生年金・健康保険の加入手続きをします」と連絡が来て、初めて自分が106万円の対象になっていたことを知ったといいます。130万円までは大丈夫だと思って組んでいたシフトだったため、想定より数万円分、社会保険料が天引きされることになり、「同じ社会保険の壁でも、勤務先の規模でこんなに基準が違うとは知らなかった」と話していました。130万円の壁は夫の扶養に関する基準、106万円の壁は自分の勤務先で加入するかどうかの基準で、判定の主体がそもそも違います。まず自分の勤務先が106万円の壁の対象企業に当たるかどうかを、年始の段階で総務や人事に確認しておくことが欠かせません。
4. 130万円の壁、被扶養者認定基準と一時的収入増の特例
130万円の壁は、夫が加入する健康保険の被扶養者として認定され続けられるかどうかの基準です。日本年金機構は、被扶養者となるための収入要件を次のように説明しています。
【日本年金機構の公式見解・1次情報】
日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」では、被扶養者の収入要件について次のように説明されています。
認定対象者が被保険者と同一世帯にある場合は、『年間収入が130万円未満(60歳以上又は一定の障害者は180万円未満)』であって、かつ『収入が被保険者の年間収入の2分の1未満』であること。
別世帯にある場合は、年間収入が130万円未満(同様に60歳以上等は180万円未満)であって、かつ『収入が被保険者からの仕送り額より少ない額』であること。
出典:日本年金機構「被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20141202.html
ここでいう年間収入は、月額に換算するとおおむね10万8,333円が目安です。そして重要なのは、この「年間収入130万円未満」が、所得税のように1月から12月までの実績を積み上げて判定するものではなく、被扶養者に該当する時点から先の「見込み収入額」で判定されるという点です。極端にいえば、繁忙期にたまたま数か月だけ収入が多くなり、その状態がこの先も続くと見込まれる場合、その時点で130万円のペースを超えていると判断され、年間の合計がまだ130万円に届いていなくても扶養認定の見直し対象になり得ます。
人手不足で一時的にシフトが増え、この見込み収入の基準を超えてしまった場合の救済策として、事業主証明による特例があります。
【全国健康保険協会の公式見解・1次情報】
全国健康保険協会「被扶養者の認定における特例について」では、次のように説明されています。
『人手不足による労働時間延長等に伴い、一時的に収入が増加し年収が130万円(60歳以上または障害厚生年金受給者等の場合は180万円、19歳以上23歳未満(配偶者を除く)の場合は150万円)以上となっても、事業主証明を添付することにより』被扶養者の認定が可能。
ただしこの特例は『原則、連続2回まで被扶養者の認定が可能』とされています。
出典:全国健康保険協会「被扶養者の認定における特例について」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/public_relations/004/index.html
つまり、この特例は「一時的な増収である」ことを勤務先に証明してもらうためのものであり、恒常的にシフトを増やして働き続ける場合には使えません。また無制限に毎年使えるわけではなく、原則として連続2回までという上限がある点も見落とされがちです。
【現場のリアル】シフトを削りすぎて、秋以降の生活費が足りなくなった話
130万円の壁を強く意識するあまり、8月の時点で残りの枠を厳しく計算し、9月から週2日だけのシフトに一気に絞ってしまったパート主婦の方の話です。夏までは残業や応援シフトで月収が多かった反動で、秋からの手取りが急激に減り、光熱費や子どもの学用品費の支払いが重なる時期と重なって、家計が思いのほか苦しくなってしまったといいます。本人いわく「130万を絶対に超えてはいけないという気持ちが先に立って、超えそうだった月とギリギリ収まりそうな月をきちんと計算せずに、感覚だけでシフトを削ってしまった」とのことでした。後から給与明細を1月分から並べて集計し直してみると、実はもう2万円ほど余裕があり、週3日までシフトを維持できたはずだったそうです。壁を超えることを恐れるあまり、必要以上に働き控えをして家計を圧迫してしまうケースは、実際には少なくありません。
【現場のリアル】10月に店長へシフト減を切り出せず、ずるずる先延ばしにしてしまった話
10月に入り、そろそろシフトを減らさないと130万円を超えてしまうと分かっていながら、人手不足で困っている店長の顔を見ると言い出せず、結局11月半ばまでずるずると今まで通りのシフトに入り続けてしまった方の話です。「みんな忙しそうにしているのに、自分だけ都合よく休みを増やしてほしいとは言い出しにくかった」と振り返っていましたが、いざ12月に入って慌てて調整しようとしたところ、すでに11月分までの給与でほぼ上限に達しており、12月はほとんど働けない状態になってしまったといいます。結果として、年末の一番忙しい時期に店舗から抜けることになり、かえって同僚に迷惑をかける形になってしまったそうです。本人は「10月の早い段階で、店長には数字を見せながら相談すればよかった。感覚で伝えるより、給与明細の累計額を見せたほうが店長も納得して調整しやすかったと思う」と話していました。シフト減を切り出すタイミングは、繁忙期に入ってからではなく、繁忙期に入る前の10月上旬が最も動きやすいというのが、実際に苦労した人たちに共通する感想です。
5. どの書類のどこを見て、年収を把握すればいいか

年末に慌てないためには、給与明細の「支給日」欄、社会保険の「月額賃金・見込み収入」、年末調整の「合計所得金額の見積額」欄という3種類の数字を、それぞれ別のものとして押さえておく必要があります。
時給1,100円モデルの月別・週別の目安
時給1,100円で働く場合、106万円の壁は週20時間、123万円の壁は週約21時間、130万円の壁は週約22〜23時間、160万円の壁は週約28時間が目安になります。
| 壁の種類 | 年間の上限額 | 毎月の月収上限目安 | 週あたりの労働時間目安(時給1,100円) |
|---|---|---|---|
| 106万円の壁 | 106万円 | 月 88,000円 | 週20時間以上で該当(金額より時間が主要基準) |
| 123万円の壁(配偶者控除) | 123万円 | 月 102,500円 | 週約21時間まで |
| 130万円の壁 | 130万円 | 月 108,333円 | 週約22〜23時間まで |
| 160万円の壁(妻本人の所得税) | 160万円 | 月 133,333円 | 週約28時間まで |
月別シフト管理シートの記入例
毎月の支給額と交通費を分けて記録し、税務上の累計年収と残り枠を月ごとに更新していくと、シフト調整のタイミングを逃しません。
| 月 | 支給日 | 支給総額(基本給+残業) | 交通費(非課税) | 税務上の累計年収(交通費除く) | 残り枠(123万円まで) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1月〜9月 | 各月 | 計 850,000円 | 計 45,000円 | 850,000円 | 380,000円 |
| 10月 | 10/25 | 100,000円 | 5,000円 | 950,000円 | 280,000円 |
| 11月 | 11/25 | 100,000円 | 5,000円 | 1,050,000円 | 180,000円 |
| 12月 | 12/25 | 100,000円 | 5,000円 | 1,150,000円 | 80,000円(安全クリア) |
社会保険の130万円や160万円の壁を優先したい場合は、右端の上限セルの数字を差し替えるだけで同じ形式のまま使い回せます。
給与明細については、額面の総支給額の欄を、1月支給分から順番に手元で足し合わせていきます。基本給や残業代だけでなく、深夜手当や皆勤手当なども含めた総支給額が対象です。通勤手当は、所得税の103万円(実質160万円)の計算からは除いて構いませんが、106万円・130万円の社会保険の判定では含めて考える必要があるため、税金用と社会保険用で別々に集計しておくと混乱しません。
給与明細に記載されている支給日にも注意が必要です。所得税は実際に給料が銀行口座へ振り込まれた日、つまり支給日を基準に、その年の1月1日から12月31日までに支払われた分で年収を数えます。たとえば20日締め・翌月10日払いの会社であれば、12月21日から1月20日までの勤務分は翌年2月10日に支給されるため、今年の年収には含まれません。逆に11月21日から12月20日までの勤務分は1月10日に支給されるため、これも今年の年収には含まれず、翌年分としてカウントされます。何日分働いたかではなく、いつ振り込まれたかで判定される点を、給与明細の支給日欄で確認してください。
一方、106万円の壁と130万円の壁は、前述のとおり実績の積み上げではなく、これから先の見込みで判定されます。目安にするなら、直近数か月分の給与明細の総支給額を平均し、それを12倍した金額が130万円や106万円の年収換算ラインに近づいていないかを確認するのが実務的です。単月だけを見て一喜一憂するのではなく、直近3か月程度の平均で傾向を見るようにすると、繁忙期の一時的な増加なのか、恒常的な増収なのかを見分けやすくなります。
夫の会社から配られる年末調整の「給与所得者の配偶者控除等申告書」には、妻の「合計所得金額の見積額」を記入する欄があります。ここには給与収入そのものではなく、給与収入から給与所得控除を差し引いた後の所得金額を書く必要があるため、記入例や国税庁の申告書作成コーナーの案内に沿って、収入額から所得額への変換を正しく行ってください。分からない場合は、空欄のまま提出せず、夫の会社の経理担当か税務署に確認するほうが、後から訂正するより手間がかかりません。
6. よくある質問
Q1. 103万円の壁は、もう気にしなくていいのですか。
妻本人の所得税という意味では、令和7年分から160万円まではかからないため、以前ほど神経質になる必要はありません。ただし、勤務先の家族手当や配偶者手当が独自に「103万円以下」を支給条件にしている場合は、税制とは別に会社の規定として103万円が引き続き基準になっていることがあります。手当の支給基準は勤務先の就業規則で決まるため、税制改正とは連動していない可能性がある点に注意してください。
Q2. 交通費は3つの壁それぞれに含まれますか。
所得税の壁(103万円、現行では実質160万円)には、通勤手当のうち月15万円までの非課税分は含めません。一方、106万円の壁の月額賃金要件と、130万円の壁の年間収入要件には、通勤手当も含めて判定します。税金の計算と社会保険の計算で、同じ「収入」でも範囲が違う点を混同しないようにしてください。
Q3. 夫の会社の年末調整書類には、妻の年収をいくらと書けばいいですか。
その年の1月から12月まで支給される見込みの給与総額を記入します。年の途中で記入する場合は、すでに支給された金額に、残りの月の見込み額を足して概算してください。年末に実際の金額が見積もりと違っていた場合は、翌年の年末調整や確定申告で精算されるのが一般的です。不安な場合は、少し多めに見積もっておいたほうが、後から追加で税金を納める事態は避けやすくなります。
Q4. 繁忙期に一時的に130万円を超えそうな場合、必ず扶養から外れますか。
必ず外れるわけではありません。前述のとおり、勤務先が「一時的な収入増である」ことを証明する書類を提出すれば、原則として連続2回までは扶養にとどまれる特例があります。ただし今後もその収入水準が続くと見込まれる場合は特例の対象にならないため、繁忙期が一時的なものかどうかを、店長や上司とあらかじめ相談しておくとスムーズです。
Q5. 106万円の壁は、いつなくなるのですか。
2025年6月に成立した年金制度改正法により、月額8万8,000円以上という賃金要件を撤廃する方針が決まっています。ただし施行時期は「法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断する」とされており、2026年8月時点でまだ正式な施行日は確定していません。撤廃後も週20時間以上という労働時間要件は残るため、賃金要件がなくなったあとは「週20時間働くかどうか」が主な基準になる見通しです。
まとめ、数字だけを覚えるより、判定の仕組みを知っておく
103万円の壁は、令和7年度税制改正によって、妻本人の所得税がかからないラインが実質160万円まで引き上げられています。夫の配偶者控除が配偶者特別控除に名前を変える123万円というラインもありますが、控除額そのものは160万円まで変わらないため、家計に実際の影響が出るのは160万円からです。
106万円の壁は、現在も月額賃金8万8,000円以上という要件が生きていますが、2025年6月成立の年金制度改正法により将来撤廃される方針が決まっており、施行時期は全国の最低賃金の水準を見ながら今後判断されます。130万円の壁は夫の扶養にとどまれるかどうかの基準で、こちらは年間の実績ではなく、これから先の見込み収入で判定される点が、税金の壁とは根本的に違います。
3つの壁は制度も判定方法も違うからこそ、勤務先の規模や自分の給与体系に照らして、どの壁が自分に関係するのかを先に整理しておくことが、秋になってから慌てて計算し直すよりずっと確実です。数字だけを覚えるのではなく、それぞれの壁がどういう仕組みで判定されているかを押さえておけば、店長との相談も具体的な根拠を持って進められます。
年末調整の書類作成をスマホで手早く終わらせたい方は、無料で使える「書けた年末調整」もあわせてご検討ください。