所得税の累進課税、昇給で手取りが減らない理由と速算表の使い方

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目次

「給料が上がって税率が10%から20%に上がると、給料全体に20%の税金がかかって手取りが減るんじゃないか」

「国税庁の所得税の速算表に出てくる『控除額』って、結局何を引いているお金なのか」

給与明細や源泉徴収票を見ながら、この二つの疑問にぶつかったことがある人は多いと思います。とくに「課税所得が330万円を超えると税率が20%に跳ね上がるから、昇給すると手取りが減って損をする」という話は、職場の雑談やネットの書き込みで一度は耳にする定番の誤解です。

実際のところ、日本の所得税は「一定の基準を超えた部分にだけ」高い税率がかかる超過累進課税という方式を採っています。全体に高い税率がかかるわけではないので、昇給によって手取りの絶対額が減ることは、税金の計算構造上起こりません。この記事では、超過累進課税の実際の計算方法から、国税庁の所得税速算表の読み解き方、給与年収から課税所得が算出されるまでの流れ、復興特別所得税の加算まで、国税庁の公式情報にもとづいて整理します。


1. 超過累進課税、階段状に税率が上がる仕組み

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もし所得全体にその税率がまるごとかかる「単純累進課税」だったなら、税率が変わる境目で年収と手取りの大小が逆転してしまうこともあり得ます。しかし日本の所得税はそうではなく、所得を段階(区分)に分け、区分ごとにオーバーした部分にだけその区分の税率をかける「超過累進課税」の方式を採っています。

課税所得400万円の人を例に、実際に段階を追って計算すると次のようになります。

課税所得の区分適用される税率その区分にかかる税額
1円〜195万円までの部分5%97,500円
195万円超〜330万円までの部分10%135,000円
330万円超〜400万円までの部分20%140,000円
合計372,500円

330万円を超えた70万円分にだけ20%がかかっているのであって、400万円全体に20%がかかっているわけではありません。この構造がある限り、昇給して課税所得のランクが一段上がっても、上がった部分にかかる税率が上がるだけで、それより下の部分にかかる税額は変わらないため、手取りの絶対額が昇給前より少なくなることは起こり得ません。


2. 国税庁「所得税の速算表」の読み方

上の階段計算を毎回1段ずつ積み上げるのは手間がかかります。そこで国税庁が公開しているのが、1回の掛け算と引き算で同じ答えを出せる所得税の速算表です。

【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.2260 所得税の税率」では、次のように説明されています。
「所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5パーセントから45パーセントの7段階に区分されています」
「課税される所得金額(1,000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)に対する所得税の金額は、次の「所得税の速算表」を使用すると簡単に求められます」
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

計算式は「課税される所得金額 × 税率 − 控除額」です。

課税される所得金額(課税所得)所得税率速算表の控除額
1,000円〜194万9,000円5%0円
195万円〜329万9,000円10%97,500円
330万円〜694万9,000円20%427,500円
695万円〜899万9,000円23%636,000円
900万円〜1,799万9,000円33%1,536,000円
1,800万円〜3,999万9,000円40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

先ほどの課税所得400万円の例で速算表を使うと、400万円×20%−427,500円=372,500円となり、階段計算と1円単位で同じ結果になります。この「控除額」は割引や特典ではなく、5%・10%の低い区分にすでに課税された分を、20%という高い税率で計算し直した金額から差し引いて帳尻を合わせるための数字です。ここを「税金が安くなる特別控除」だと勘違いすると、速算表そのものの意味が分からなくなってしまいます。

#### 【現場のリアル】源泉徴収票の税率だけを見て青ざめた同僚の話

昇進して基本給が上がった直後、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」と「所得控除の額の合計額」の差から自分の課税所得を計算し、速算表で税率が10%から20%に変わったことに気づいたという相談を受けたことがあります。その人は「税率が20%になったということは、額面の2割が税金で持っていかれるようになったのか」と本気で心配し、経理に「昇給を辞退できないか」と聞きに行こうとしていました。実際に一緒に計算してみると、20%がかかるのは330万円を超えた部分だけで、そこより下の所得には従来どおり5%と10%しかかかっておらず、年間の手取りは昇進前よりはっきり増えていました。誤解の原因は、速算表の「税率」という一つの数字だけを見て、それが所得全体にかかると思い込んでしまったことでした。速算表を見るときは、税率の欄だけでなく、必ず同じ行の「控除額」までセットで確認する、これだけで大きな誤解を防げます。


3. 給与年収から課税所得が計算されるまでの流れ

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速算表の税率をかける相手は、給与明細の総支給額(年収)そのものではなく、そこから二段階の控除を経た後の「課税所得」です。

【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1410 給与所得控除」では、次のように説明されています。
「給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて算出します」
出典:国税庁「No.1410 給与所得控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm

課税所得が確定するまでの流れは次の3段階です。

  1. 給与年収(額面)から、収入金額に応じて定められた「給与所得控除額」を差し引き、給与所得を求める。
  2. 給与所得から、基礎控除・扶養控除・社会保険料控除・生命保険料控除・iDeCoの掛金など、各種所得控除の合計額を差し引き、課税所得を求める。
  3. 課税所得の1,000円未満を切り捨て、その金額に速算表を当てはめて所得税額を求める。

同じ年収の人でも、扶養家族の人数や生命保険料控除、iDeCoの掛金の有無によって2段階目の所得控除の合計額が変わるため、最終的な課税所得、そして適用される税率のランクまで変わってきます。年収が同じなのに同僚と手取りが違う、という状況の多くは、この所得控除の使い方の差によるものです。

#### 【現場のリアル】年末調整の窓口で「控除って何を書けばいいのか」と聞かれた話

年末調整の時期、経理の窓口には毎年「保険料控除の申告書の書き方が分からない」という社員が列を作ります。ある年、入社2年目の社員が「これを書くと税金が戻ってくるんですよね、でも何を書けばいいのか分からないので白紙で出していいですか」と申告書を持ってきたことがありました。生命保険に加入していないか尋ねると、実は会社の団体保険とは別に個人でも生命保険に入っていて、保険会社から控除証明書のハガキが届いていたことを思い出し、「あれ、捨てちゃったかもしれません」と青ざめていました。結局、保険会社のマイページから控除証明書の電子データを再発行してもらい、期限ぎりぎりで申告書に記入できましたが、もし気づかずに白紙で出していたら、その年の生命保険料控除は受けられないまま年末調整が確定していたところでした。控除証明書のハガキは、届いた時点で年末調整の書類と同じ場所に保管しておく、これだけで期限直前の慌てた再発行依頼を防げます。


4. 復興特別所得税、基準所得税額に2.1%を上乗せ

速算表で計算した所得税額(基準所得税額)は、そのまま最終的な納税額になるわけではありません。東日本大震災の復興財源にあてるため、基準所得税額に2.1%を上乗せした金額が最終的な所得税額になります。

【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.2507 復興特別所得税の源泉徴収」では、次のように説明されています。
「平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生ずる所得」に対して復興特別所得税が適用される
「合計税率は、所得税率(%)×102.1%」
出典:国税庁「No.2507 復興特別所得税の源泉徴収」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2507.htm

計算式にすると「最終所得税額=基準所得税額×102.1%」です。課税所得400万円の例で言えば、372,500円×102.1%=380,262円(1円未満切り捨て)が、復興特別所得税を含めた最終的な所得税額になります。対象期間は令和19年(2037年)12月31日までと定められており、給与明細や源泉徴収票の所得税欄には、すでにこの2.1%が上乗せされた金額が記載されています。


5. 課税標準の端数処理、1,000円未満は切り捨て

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速算表に当てはめる前の課税所得には、1,000円未満の端数を切り捨てるというルールがあります。

国税庁「No.2260 所得税の税率」の説明にあるとおり、速算表を使うのは「課税される所得金額(1,000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)」に対してです。たとえば課税所得が3,456,789円だった場合、速算表にかける前の金額は1,000円未満を切り捨てた3,456,000円として計算します。切り上げではなく切り捨てなので、端数処理によって納税者が損をすることはありません。


6. よくある質問(Q&A)

#### Q1. 住民税も所得が増えると税率が上がりますか。

上がりません。住民税の所得割は、所得の多寡にかかわらず税率が一律10%(道府県民税4%、市町村民税6%)で固定されています。総務省「地方税制度 個人住民税」でも、所得割の税率は10%とされていると説明されており、所得税のような累進構造は住民税にはありません。上がるのは所得税の方だけです。

出典:総務省「地方税制度 個人住民税」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_06.html

#### Q2. 最高税率45%が適用されるのはどのような人ですか。

課税所得が4,000万円を超える部分に対してのみ45%がかかります。役員報酬や事業所得が高額な層が中心で、一般的な会社員の給与水準でこのランクに達することはまずありません。しかも45%がかかるのは4,000万円を超えた部分だけで、4,000万円までの所得にはそれぞれ下位の税率が適用されたままです。

#### Q3. 課税所得のランク自体を下げる方法はありますか。

あります。速算表の税率は課税所得の金額で決まるため、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金全額所得控除や、生命保険料控除、ふるさと納税による寄附金控除などで課税所得そのものを圧縮すれば、適用される税率のランクを一段階下げられる場合があります。自分の課税所得が速算表のどの区分の境目に近いかを源泉徴収票で確認しておくと、控除を追加する効果が見えやすくなります。

#### Q4. 自分の課税所得はどこを見れば分かりますか。

会社員であれば、年末調整後に受け取る源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を差し引いた金額が課税所得にあたります。確定申告をしている人であれば、申告書第一表の「課税される所得金額」の欄に、切り捨て後の金額がそのまま記載されています。


まとめ

日本の所得税は、課税所得のうち基準を超えた部分にだけ高い税率がかかる超過累進課税です。速算表の「控除額」は、下位の税率区分で計算し直した分を差し引くための数字であり、税率が上がったからといって手取りの絶対額が減ることはありません。課税所得は給与年収から給与所得控除、さらに各種所得控除を差し引いて算出され、そこに速算表を当てはめた基準所得税額に、2037年まで続く復興特別所得税2.1%を上乗せしたものが最終的な納税額になります。

自分の課税所得がどの区分に入っているかを源泉徴収票で確認し、iDeCoや生命保険料控除といった所得控除を使って課税所得そのものを圧縮できないか、一度点検してみる価値はあります。

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