「病気やメンタル不調で休職中だけど、会社から年末調整の書類が届いた…給料がゼロでも提出するの?」
「休職中に健康保険から受給している『傷病手当金』は、年末調整の書類に年収として書くべき?」
病気やケガ、うつ病や適応障害などのメンタルヘルスの悪化で会社を休職している間も、年末調整の時期は容赦なくやってきます。給料が振り込まれていないのに、なぜ会社から書類が届くのか。傷病手当金は「収入」として申告するのか。この記事では、休職中の年末調整の正しい進め方から、傷病手当金の非課税ルール、配偶者の扶養に入る際の実務、住民税や社会保険料の支払い方まで、根拠となる法令と実際にあったやり取りを交えて整理しました。
1. 休職中でも「給料ゼロ」で年末調整書類の提出は必須

休職中であっても、会社との雇用契約が続いている限り、その人はあくまで「給与所得者」です。年の途中で給料が0円の月が続いていたとしても、年末調整の対象者から自動的に外れるわけではありません。
【国税庁の公式見解・1次情報】
所得税法第194条は、居住者が国内において給与等の支払を受ける場合には、その給与の支払者を経由して「給与所得者の扶養控除等申告書」を、給与の支払者の所轄税務署長に提出しなければならないと定めています。
出典:所得税法第194条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」では、この申告書の提出について案内があります。給与所得者は、その年最初の給与の支払を受ける日の前日までに扶養控除等申告書を給与の支払者に提出することとされており、これを提出しない場合は「主たる給与についての扶養控除等申告書の提出がない者」として、税額表の乙欄が適用され、源泉徴収される税額が高くなります。
出典:国税庁「A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_01.htm
条文を実務に置き換えると、次のようになります。
【休職中の年末調整ルール(根拠:所得税法194条/国税庁A2-1)】
| ① 書類の提出 | 会社へ提出必須(郵送・WEB可) 未提出のままだと「乙欄」扱いとなり 復職後の給与から高い税率で源泉徴収される |
|---|---|
| ② 傷病手当金の記入 | 年収・所得の欄には一切書かない(0円扱い) |
| ③ 1月〜休職前の給料 | 会社側で年税額を再計算し、 払いすぎていた所得税があれば還付される |
休職に入る前の数ヶ月間(1月から休職前まで)に給料から源泉徴収されていた所得税がある場合は、年末調整によって数万円から十数万円が現金で戻ってくることも珍しくありません。「どうせ休んでいるから関係ない」と書類を放置してしまうと、この還付を受け損ねるうえ、乙欄適用で余計な税負担まで背負うことになります。
【現場のリアル】休職中に届いた年末調整書類の茶封筒を開けるのが怖かった話
適応障害で3ヶ月休職していた方から聞いた話です。ポストに会社のロゴが入った茶封筒が届いた瞬間、心臓がぎゅっと縮んだといいます。「また何か催促されるんじゃないか」「復職の話をされたらどう答えよう」と、封を切るまでに二日かかったそうです。実際に中身を開けてみると、入っていたのは扶養控除等申告書と基礎控除申告書、そして記入例だけで、復職を急かす言葉は一切なかった。それでも、会社からの郵便物というだけで身構えてしまう感覚は、休職を経験した人でないと分からない重さがある、と話していました。結局、記入欄のほとんどは「昨年から変更なし」で埋まり、実際の作業時間は10分もかからなかったそうです。書類そのものの負担よりも、封を開けるまでの気持ちの負担のほうがずっと大きかった、というのが本人の実感でした。
2. 傷病手当金は「非課税所得」。年収の欄には1円も書かない
休職中に健康保険から支給される傷病手当金(おおむね給料の3分の2相当額)は、健康保険法第62条によって課税対象から外されています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
健康保険法第62条は「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない」と定めています。傷病手当金は健康保険法にもとづく保険給付にあたるため、この規定により所得税・住民税ともに課されません。
出典:健康保険法第62条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
つまり、傷病手当金は税務上「なかったもの」として扱われます。
【傷病手当金の税務上の判定】
・年間受給額の例: 240万円 → 税金計算上は「0円」として扱う
・税務上の年収: 0円
・税務上の所得: 0円
年末調整用紙にある「あなたの本年中の合計所得金額の見積額」欄には、傷病手当金の額を足してはいけません。今年1月から休職に入るまでの間に、実際に会社から支給された給料の総支給額だけをもとに記入します。ここを勘違いして傷病手当金まで年収に合算してしまうと、扶養控除や配偶者控除の判定を自分で誤らせてしまうことになるため、注意が必要です。
【現場のリアル】傷病手当金をどう書けばいいか分からず、総務に電話をかけた話
うつ病で半年休職していた方の体験です。基礎控除申告書の「給与所得以外の所得の合計額」という欄を見て、健康保険組合から毎月振り込まれている傷病手当金をここに書くべきか分からず、記入欄の前で30分近く固まってしまったといいます。ネットで検索しても「非課税」という言葉は出てくるものの、実際の申告書のどの欄にどう書けばいいのかがはっきりせず、思い切って会社の総務担当者に電話をかけたそうです。電話口の担当者からは「傷病手当金は完全に非課税なので、どの欄にも書かなくて大丈夫です。給与所得以外の所得はゼロで提出してください」とあっさり回答があり、拍子抜けするほど簡単な話だったといいます。「休職中に会社へ電話をかけること自体に勇気がいったが、聞いてみれば1分で終わる話だった」と振り返っていました。電話をかける前にメモしておいた「傷病手当金は年収に含めるか」という一文だけのメモが、結果的に一番役に立ったそうです。
3. 休職で年収が下がった年は「配偶者の扶養」に入れるチャンス

休職によってその年の給与年収が大きく下がった場合、配偶者(夫または妻)の年末調整で、あなたを配偶者控除の対象にできる可能性があります。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1191 配偶者控除」によると、控除対象配偶者となるための要件のひとつに「年間の合計所得金額が58万円以下であること(給与収入のみの場合は給与収入が123万円以下)」があり、この場合、控除を受ける本人の合計所得金額に応じて配偶者控除(一般の控除対象配偶者は最大38万円、老人控除対象配偶者は最大48万円)が受けられます。この所得要件は令和7年分以後の申告に適用されるもので、令和6年分以前は合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下)でした。
出典:国税庁「No.1191 配偶者控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm
【国税庁の公式見解・1次情報】
この所得要件の引き上げは、令和7年度税制改正による給与所得控除の見直し(最低保障額が55万円から65万円に引き上げ)と合わせて行われたものです。
出典:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
具体例で見ると、次のようになります。
【具体例:夫が年の途中から休職し、妻が正社員で働いている場合】
・夫の今年の給与収入:70万円(傷病手当金200万円は非課税のため税務上0円カウント)
・妻の年収:500万円
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→ 夫の税法上の給与収入は「123万円以下(合計所得金額58万円以下)」を満たす
→ 妻の年末調整で夫を「控除対象配偶者」として申告できる
→ 妻の所得税・住民税が軽くなり、仮に妻の税率が所得税・住民税あわせて20%程度なら
配偶者控除38万円 × 20% = 年間で7万円台の負担軽減になる(税率は妻の所得水準による)
この控除を受けるには、休職している側の記入だけでなく、配偶者側の会社に提出する「給与所得者の配偶者控除等申告書」に、休職中の人の氏名・マイナンバー・見積年収を正しく記載してもらう必要があります。休職している本人と配偶者、双方の会社の書類が連動しているという点を見落としがちです。
【現場のリアル】配偶者の扶養に入れる手続きで書類が行き違った話
妻が休職し、夫が会社員として働いている家庭の話です。妻の給与収入がその年123万円を下回ることが分かり、夫の年末調整で配偶者控除を受けようと考えたものの、夫が会社に提出した配偶者控除等申告書には「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額」の欄が空欄のまま出されてしまっていたそうです。夫は「妻は今年ほとんど働いていないから、書かなくていいと思っていた」と説明していましたが、空欄のままでは会社側が判定できず、後日、経理担当者から「配偶者の年収見込みを教えてください」という確認の電話が入りました。慌てて妻の休職前の給与明細を集め、1月から休職開始までの総支給額を合算して伝え直したことで、事なきを得たといいます。「ゼロだから書かなくていい」ではなく「ゼロに近い具体的な金額として書く」必要があるという、当たり前だけれど見落としやすいポイントだった、と夫婦そろって振り返っていました。
4. 休職中も止まらない「社会保険料」と「住民税」の支払い
給料が0円になっても、社会保険料(健康保険・厚生年金保険料)と、前年分の所得にもとづく住民税の支払いは免除されません。
社会保険料は、休職中も会社が一旦立て替えて納付を続けているケースが一般的で、その分を毎月会社の指定口座へ振り込んで精算する運用になっている会社が多くあります。
住民税については、給与から天引きする「特別徴収」が前提となっていますが、休職で給与の支払いがなくなると天引きができなくなります。この場合の取り扱いは地方税法に定められています。
【地方税法(総務省所管)にもとづく実務上の取り扱い】
地方税法第321条の4により、給与の支払者は原則として住民税を特別徴収する義務を負いますが、休職などで給与の支払いがなくなり特別徴収を継続できない場合には、会社が市区町村へ「給与所得者異動届出書」を提出し、残りの税額を本人が自分で納付する「普通徴収」へ切り替える扱いになります。これは国税庁ではなく総務省・各市区町村が所管する地方税の手続きです。
出典:地方税法第321条の4(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
【休職中の公的固定費の支払い方法】
| ① 社会保険料 | 会社が立て替え、毎月会社の指定口座へ本人が振込 |
|---|---|
| ② 住民税 | 特別徴収から普通徴収へ切替。自宅に届く納付書で 一括または分割(年4回)で納付する |
普通徴収に切り替わると、市区町村から自宅へ直接納付書が届きます。会社を経由しないやり取りになるため、案内が来ることを事前に知らないと「知らない封筒が届いた」と驚くことになりがちです。
5. よくある質問(Q&A)

Q1. 会社から年末調整用紙が郵送されてきましたが、体調が悪くて書けません。
会社の総務部に連絡し、記入の代行や提出期日の延長、WEB上での簡易申請ができないか相談してください。基礎控除申告書は署名と最低限の記入だけで処理してもらえるケースも多く、体調がすぐれない時期に無理をして仕上げる必要はありません。所得税法194条が定めているのはあくまで「提出義務」であり、提出方法や期日の細かな運用は会社ごとに柔軟に対応してもらえることがほとんどです。
Q2. 休職中に自分で支払った社会保険料は年末調整で控除できますか。
会社へ振り込んで支払った社会保険料は「社会保険料控除」として全額を所得から差し引くことができます。会社が発行する納付証明や、振込明細を保管しておき、年末調整の書類にその金額を記入してください。
Q3. 傷病手当金以外に、休職中に受け取ったお金で申告が必要なものはありますか。
健康保険組合独自の「付加給付」も傷病手当金に準じて非課税として扱われるのが一般的ですが、会社独自の見舞金や休職手当のように、勤務先が任意で支給しているお金は給与所得として課税対象になる場合があります。判断に迷う場合は、支給元(健康保険組合か会社か)を確認したうえで、総務担当者か税務署に確認するのが確実です。
Q4. 扶養控除等申告書を出さずに年を越してしまったら、もう間に合いませんか。
年末調整に間に合わなかった場合でも、翌年の確定申告期間(原則2月16日から3月15日)に自分で確定申告をすれば、還付を受けることができます。乙欄で多めに源泉徴収されていた分も、確定申告によって精算されます。
6. 【休職中の年末調整チェックリスト】提出書類とタイミング早見表
休職中の社員が年末調整の時期に行うべきことを時系列でまとめました。
【休職中の年末調整ToDoリスト】
1. 11月上旬:会社から届いた年末調整用紙(またはWEB案内)を確認する。
2. 11月中旬:基礎控除申告書に、休職前に支給された給与額のみを記入し、
傷病手当金は記入欄に含めない。
3. 11月中旬:配偶者の扶養に入れる場合は、休職前の総支給額を配偶者側の
会社の申告書にも正確に伝える。
4. 11月下旬:生命保険料控除証明書や、自腹で払った社会保険料の領収書を
同封して会社へ返送する。
5. 12月下旬:会社から源泉徴収票と還付金(指定口座振込)を受け取る。
6. 通年 :住民税の普通徴収の納付書が届いたら、納期限を確認して分納する。
まとめ:休職中も正しく手続きすれば、税金は取り戻せる
休職中であっても、雇用契約が続いている限り年末調整書類の提出は必要です。傷病手当金は健康保険法第62条により非課税所得とされているため、年収の欄には書きません。休職前に給料から源泉徴収されていた所得税は、年末調整を経て還付されます。年収が123万円以下(令和7年分以降の基準)まで下がった年は、配偶者の扶養に入ることで世帯全体の税負担を軽くできる可能性もあります。住民税だけは会社の給与天引きが止まるため、普通徴収への切り替えと納付のタイミングを自分で把握しておく必要があります。
体調を整えることを最優先にしながらも、封筒を開けて中身を確認するところから始めれば、手続き自体はそれほど重いものではありません。