「台風や大雪、地震で自宅の屋根や壁が壊れて修理費が何百万円もかかった…」
「空き巣に入られて現金や家財を盗まれてしまったけれど、税金の救済制度はあるのだろうか」
地震、台風、豪雨、火災などの自然災害や、空き巣・盗難といった予期せぬ被害に見舞われた際、被災者の生活再建を支えるために国が用意している税金の減免制度が「雑損控除」と「災害減免法」です。
これらの制度を活用して確定申告を行うことで、その年の所得税が大きく減ったり、場合によっては全額免除(0円)になったりします。給料から天引きされていた所得税が、確定申告後に数十万円単位で現金として戻ってくることもあります。
さらに、損害額が大きすぎてその年の所得から引ききれなかった場合でも、翌年以後3年間(大規模な特定非常災害では5年間)にわたって損失を繰り越し、翌年以降の税金を減らし続けられる仕組みが用意されています。
この記事では、雑損控除と災害減免法の違いから、控除額の計算式、罹災証明書などの必要書類、確定申告での手続きまで、国税庁の公式情報をもとに整理しました。
【現場のリアル】台風で床上浸水した後、罹災証明書をもらうために市役所に並んだ話
台風で自宅が床上浸水した方から聞いた話です。水が引いた翌朝、家の中は泥まみれで、まず何をすればいいのか分からないまま呆然としてしまったそうです。近所の人から「税金の控除を受けるには罹災証明書が要るらしい」と教えられ、とにかく市役所に行かなければと重い足取りで向かったところ、同じように被災した住民が何十人も列をなしていて、受付までに2時間近く待たされたといいます。
窓口では「まず被害状況の写真を撮っておいてください、修理業者が入る前に、部屋の四隅と浸水した高さが分かるように」と言われ、証明書の発行自体は後日郵送になると案内されました。片付けを急ぎたい気持ちと、証拠を残さなければという気持ちがせめぎ合い、結局その方は泥だらけの畳や家電を運び出す前に、スマホで一枚一枚写真を撮ってから作業を始めたそうです。後になって、この時に慌てず写真を残しておいたことが、確定申告の際の説明資料としてとても役立ったと振り返っていました。
1. ひと目でわかる「雑損控除」と「災害減免法」の違い

災害による損害を受けた場合、納税者はこの2つの制度のうち、有利な方を選んで確定申告することができます。
| 比較項目 | 雑損控除(所得税法第72条) | 災害減免法 |
|---|---|---|
| 対象となる原因 | 震災、風水害、火災、雪害、盗難、横領 | 震災、風水害、火災等の自然現象・人為的な災害(盗難・横領は対象外) |
| 所得の制限 | 所得制限なし | 合計所得金額が1,000万円以下 |
| 損害の規模要件 | 特になし(少額でも対象) | 住宅や家財の時価の2分の1以上の損害 |
| 減免の仕組み | 所得控除(課税所得から差し引く) | 所得税額そのものを全額免除、2分の1、4分の1のいずれかに軽減 |
| 損失の繰越控除 | 翌年以後3年間(特定非常災害は5年間)繰越可能 | 繰越はできず、その年限り |
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」では、雑損控除の対象となる損害の原因として、震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害、火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害、害虫などの生物による異常な災害、盗難、横領による損失が挙げられています。詐欺や恐喝による被害は対象になりません。
出典:国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1110.htm
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除」では、災害減免法の適用について、災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下であり、住宅や家財の損害金額(保険金などで補てんされる金額を除く)がその時価の2分の1以上である場合に、所得金額に応じて所得税が軽減または免除されると説明されています。所得500万円以下は所得税の全額、500万円超750万円以下は2分の1、750万円超1,000万円以下は4分の1が軽減の対象です。また、雑損控除と災害減免法はいずれか有利な方法を選択できるとされています。
出典:国税庁「No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1902.htm
【制度選びの目安】
・損害額が大きく、その年だけでは控除しきれない場合 -> 雑損控除(3年間の繰越が使える)
・所得1,000万円以下で、住宅や家財の被害が時価の半分以上に及んだ場合 -> 災害減免法も比較対象になる
盗難や横領の被害は災害減免法の対象にならないため、盗難被害の場合は自動的に雑損控除のみを検討することになります。
2. 雑損控除の計算式と「控除額」の算出方法
雑損控除として差し引ける金額は、次の2つの計算式のうち、いずれか多い方の金額です。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」では、控除額の計算式について、次の(1)と(2)のいずれか多い方の金額とすると説明されています。(1)(損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-(総所得金額等)×10%、(2)(災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円。
出典:国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1110.htm
【雑損控除の計算式(いずれか多い方)】
計算式(1):(差引損失額) − (総所得金額等 × 10%)
計算式(2):(差引損失額のうち災害関連支出の金額) − 5万円
差引損失額は、損害金額に撤去や清掃にかかった費用(災害関連支出)を足し、そこから受け取った火災保険金や共済金を差し引いた金額です。損害金額そのものは、被災直前の時価をもとに算定するため、修理見積書や罹災証明書に記載された被害の程度が計算の土台になります。
【現場のリアル】片付け費用の領収書をとっさに保管し忘れて慌てた話
大雨で自宅の裏山が崩れ、庭と一階部分に土砂が流れ込んだ方の話です。とにかく生活を立て直すことで頭がいっぱいで、業者に土砂の撤去と清掃を依頼した際、代金を現金で支払って領収書をもらったものの、それを台所の引き出しに無造作に突っ込んだまま数か月が過ぎてしまったそうです。
翌年、確定申告の時期が近づいてきて、税務署の相談窓口に電話をかけたところ、災害関連支出の金額は雑損控除の計算に直接影響するため、領収書がないと正確な控除額が出せないと言われ、慌てて業者に連絡して領収書の再発行をお願いしたといいます。幸い業者側に記録が残っていて再発行してもらえましたが、本人は「あの時にもし業者が廃業していたら、と思うとぞっとした」と話していました。片付けや修理を依頼した時点で、業者名、日付、金額、作業内容が分かる領収書や請求書を一つの封筒にまとめておくと、後で慌てずに済みます。
3. 引ききれない損失を翌年以降に繰り越す「繰越控除」

損害額が大きく、その年の所得から控除しきれなかった場合、残った金額は翌年以後に繰り越して将来の所得から控除できます。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」では、雑損控除額がその年の所得金額から控除しきれない場合、翌年以後3年間に繰り越して各年の所得金額から控除することができると説明されています。東日本大震災または令和5年4月1日以後に生じた特定非常災害による損失については、繰越期間が5年間になります。
出典:国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1110.htm
【繰越控除の考え方(イメージ)】
・年収:500万円(所得 350万円)
・台風による住宅損害額(保険金控除後の差引損失額):800万円
1年目:所得350万円から350万円を控除(残り450万円を翌年に繰越)
2年目:所得350万円から350万円を控除(残り100万円を翌年に繰越)
3年目:所得350万円から100万円を控除(繰越分を使い切る)
繰越控除を受けるためには、控除しきれなかった年だけでなく、繰越を受ける年ごとに確定申告書を提出し続ける必要があります。1年目に申告して終わりではなく、2年目、3年目も忘れずに申告することで初めて繰越分が反映される点に注意してください。
4. 確定申告に必要な添付書類
申告を行う際、手元に揃えておきたい書類です。
【雑損控除・災害減免法の必須書類】
| 罹災証明書(りさいしょうめいしょ) | 市区町村役場から発行される被害の 程度を証明する書類 |
|---|---|
| 被害の復旧にかかった領収書 | 建物の修繕・撤去・片付け・清掃に かかった費用の領収書・請求書原本 |
| 保険金の支払通知書 | 火災保険や地震保険から受け取った 保険金額が記載された明細書 |
被災箇所の写真(スマホで撮影した被害状況の写真)も手元に保管しておくと、確定申告書を作成する際に損害金額の根拠を説明しやすくなります。盗難被害の場合は、これらに加えて警察に提出した被害届(盗難届)の控えも重要な資料になります。
【現場のリアル】盗難被害に遭い、警察の被害届と税務署の関係が分からず問い合わせた話
自宅に空き巣が入り、現金と貴金属を盗まれた方の話です。まず警察に被害届を出したものの、その後どうすればいいのか見当がつかず、税務署に電話をかけて「警察に届けた被害届の内容が、そのまま税金の控除の証拠になるのか」と尋ねたそうです。
税務署の担当者からは、被害届の受理番号や届出日が分かる書類は、盗難の事実を裏付ける資料として確定申告の際に有用だが、控除額そのものは盗まれた資産の時価をもとに自分で計算し、申告書に明細を記載する必要があると説明を受けたといいます。盗まれた現金は雑損控除の対象にならない一方、貴金属などの家財は対象になり得ることも、その時に初めて知ったそうです。本人は「警察に届ければ自動的に税金が戻ってくると思い込んでいたが、実際は別の手続きだった」と話していて、盗難に遭った場合は警察への届出と税務署への確定申告を、それぞれ独立した手続きとして進める必要があります。
5. よくある質問

Q1. 詐欺や恐喝に遭ってお金を騙し取られました。雑損控除の対象になりますか。
対象になりません。国税庁のタックスアンサーで示されている雑損控除の対象は震災、風水害、火災、盗難、横領などに限定されており、自らの意思でお金を渡してしまう詐欺被害(振り込め詐欺、投資詐欺等)は含まれていません。
Q2. 会社の年末調整で雑損控除を申請できますか。
できません。雑損控除は年末調整の対象になっていないため、年が明けてから税務署へ確定申告書を提出する必要があります。
6. 床上浸水で自宅修理に400万円かかった場合の控除額シミュレーション
自然災害で住宅に大きな被害が出た場合の計算例です。
【年収550万円(総所得380万円)・床上浸水の事例】
・住宅修理費用: 400万円
・撤去・清掃費用: 50万円
・受取火災保険金: 150万円
・差引損失額 = (400万円 + 50万円) − 150万円 = 300万円
【雑損控除額の計算】
・計算式(1):300万円 − (380万円 × 10%) = 262万円
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-> 所得380万円から262万円を控除でき、その年の所得税額が大きく減る
この事例のように差引損失額が大きい場合は、多くのケースで計算式(1)の方が有利になります。一方で修理費用そのものは小さいが災害関連支出(撤去・清掃費用など)の割合が大きいケースでは、計算式(2)の方が有利になることもあるため、両方の式で試算して比較することをすすめます。
まとめ
災害や盗難による損害は、雑損控除または災害減免法のいずれかを選んで確定申告することで、その年の税負担を大きく減らせます。控除しきれなかった分は翌年以後3年間(特定非常災害は5年間)繰り越せますが、繰越を受ける年ごとに申告を続ける必要がある点は忘れないようにしてください。
被災直後は市区町村で罹災証明書を取得し、修理費用の領収書と被害状況の写真を残しておくこと、盗難の場合は警察への被害届の控えも保管しておくことが、後の確定申告をスムーズに進める土台になります。年明けの確定申告では、これらの資料をもとに税務署の窓口またはe-Taxで手続きを行ってください。