「ボーナスが入ったから住宅ローンを繰り上げ返済したいけれど、住宅ローン控除に影響はあるのか」
「繰り上げ返済で返済期間を短くすると、控除が途中で受けられなくなると聞いた」
「銀行の窓口で繰り上げ返済を申し込んだら、控除がなくなると言われて手続きを止めた」
住宅ローン控除は、借入金の返済期間が一定以上あることを前提にした制度です。そのため繰り上げ返済のやり方によっては、控除の適用条件から外れてしまうことがあります。ここでは租税特別措置法と国税庁の一次情報にもとづいて、返済期間の要件がどう定められているか、繰り上げ返済でその期間がどう判定されるか、そして銀行窓口で実際に何を確認すればよいかを整理します。
1. 返済期間10年以上という要件の法的根拠

租税特別措置法第41条第1項第1号は、住宅ローン控除の対象となる借入金について次のように定めています。
契約において償還期間が10年以上の割賦償還の方法により返済することとされているもの。
国税庁タックスアンサー「No.1211-2 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(令和4年以降に居住の用に供した場合)」でも、適用要件のひとつとして、10年以上にわたり分割して返済する方法になっている新築又は取得のための一定の借入金又は債務であることが挙げられています。出典:国税庁タックスアンサー No.1211-2 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1211-2.htm
つまり住宅ローン控除を受けられるかどうかは、借入時点の契約年数だけでなく、実際の返済の進み方によっても左右されます。返済期間が当初35年で組んであっても、繰り上げ返済によって最終的な返済期間が10年を割り込めば、この要件を満たさなくなります。
2. 繰り上げ返済で期間が縮んだ場合の判定基準
ここで多くの人が誤解しやすいのが、判定の起点です。国税庁の質疑応答事例「繰上返済等をした場合の償還期間」では、次のように整理されています。
繰り上げて支払ったことにより償還期間が短くなったとしても、当初の契約により定められていた最初に償還した月から、その短くなった償還期間の最終の償還月までの期間が10年以上であれば、本年以後も住宅借入金等特別控除を受けることができます。
出典:国税庁 質疑応答事例「繰上返済等をした場合の償還期間」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/06/10.htm
判定に使うのは「繰り上げ返済した日から完済日までの残り期間」ではありません。あくまで「一番最初にローンを返し始めた月」から「繰り上げ返済によって早まった最終返済月」までの通算期間で見ます。たとえば35年ローンを組んで5年返済したところで、期間短縮型の繰り上げ返済によって残りの返済期間が15年に縮んだとしても、最初の返済月から数えれば通算20年になるため、10年以上の要件は満たしたままです。逆に20年ローンで4年返済した時点で残り期間を大きく縮める繰り上げ返済をして、通算の返済期間が9年台になってしまうと、その年以降は控除の対象から外れます。
3. 期間短縮型と返済額軽減型、どちらを選ぶか

繰り上げ返済には二つのやり方があり、住宅ローン控除への影響が異なります。
| 繰り上げ返済の方式 | 毎月の返済額 | 返済期間 | 通算返済期間への影響 |
|---|---|---|---|
| 期間短縮型 | 変わらない | 短くなる | 通算返済期間が10年を割り込むリスクがある |
| 返済額軽減型 | 安くなる | 変わらない | 返済期間が動かないため10年ルールに抵触しない |
通算返済期間が10年ギリギリになりそうな段階では、返済額軽減型を選ぶか、期間短縮型を選ぶ場合でも繰り上げ返済後の完済予定日が当初の返済開始月から10年以上先になるように、金融機関の窓口でシミュレーションを出してもらってから決めるのが確実です。
現場のリアル。期間短縮型を申し込もうとして窓口で止められた会社員
40代の会社員、佐藤さん(仮名)は、35年ローンで3,200万円を借り入れてから18年が経過していました。ボーナスで貯めた400万円を使って期間短縮型の繰り上げ返済を申し込みに、借入先の地方銀行の窓口を訪れます。当初の返済開始月から数えて残り17年の契約でしたが、佐藤さんが希望した繰り上げ返済額をそのまま反映すると、返済期間が7年ほど短縮され、通算の返済期間が10年を割り込む計算になることが窓口の試算で判明しました。担当者から「このまま手続きを進めると、来年以降の住宅ローン控除が受けられなくなります」と説明を受けた佐藤さんは、その場で繰り上げ返済額を減らし、通算返済期間がちょうど10年を超えるラインまで期間短縮の幅を調整してもらいました。窓口担当者によると、期間短縮型の繰り上げ返済で通算期間が10年を割り込みそうなケースは、控除期間中の相談で年に何件か発生するといいます。繰り上げ返済額を先に決めてから窓口に行くのではなく、まず金融機関に通算返済期間のシミュレーションを出してもらってから金額を決める順番の方が安全です。
現場のリアル。控除が打ち切られていたことに翌年の年末調整で気づいた夫婦
共働きの夫婦、田中さん(仮名)夫妻は、夫名義で25年ローンを組んで15年が経過した時点で、繰り上げ返済によって残りの返済期間を4年まで一気に縮める期間短縮型を選択しました。通算の返済期間は19年になるため本来は問題ない水準でしたが、その2年後、住宅ローンの金利見直しに合わせて他行への借り換えを行い、借り換え後の新しいローンを残り期間8年で組んでしまいます。翌年の年末調整で住宅借入金等特別控除申告書を提出しようとしたところ、経理担当者から「借り換え後のローンの返済期間が10年に満たないため、今年からは控除の対象になりません」と指摘を受けました。田中さん夫妻は、当初のローンの通算返済期間だけを気にしていて、借り換えによって新しい契約の返済期間そのものが10年未満になっていたことに気づいていなかったのです。繰り上げ返済だけでなく、借り換えのタイミングでも新しい契約の返済期間が10年以上あるかどうかを、契約前に必ず確認しておく必要があります。
4. 銀行窓口で繰り上げ返済を申し込む前に確認すること
繰り上げ返済を申し込む際は、窓口で次の点を確認してから金額と方式を決めると、控除を失う事態を避けられます。
| 確認する項目 | 窓口で聞く内容 |
|---|---|
| 通算返済期間 | 当初の返済開始月から、繰り上げ返済後の最終返済月までの期間が何年何ヶ月になるか |
| 繰り上げ返済の方式 | 期間短縮型と返済額軽減型、それぞれで通算返済期間がどう変わるか |
| 年末残高証明書の再発行時期 | 繰り上げ返済後の残高が反映された証明書がいつ届くか |
| 借り換えを予定している場合 | 借り換え後の新しい契約の返済期間が10年以上になるか |
多くの金融機関では、繰り上げ返済のシミュレーション画面や書面で、繰り上げ返済後の完済予定年月を提示してくれます。この完済予定年月と、最初にローンを借りた年月との差が10年以上あるかどうかを、その場で自分でも確認しておくと安心です。
5. 控除期間中に繰り上げ返済をする損得

住宅ローンの借入金利が、住宅ローン控除の控除率(年末残高の0.7パーセント)を下回っている場合、控除期間中は繰り上げ返済をせずに返済を続けたほうが、支払う利息よりも戻ってくる税額のほうが大きくなる場面があります。たとえば年末残高3,000万円、借入金利0.5パーセントのケースでは、その年に支払う利息はおおむね15万円前後である一方、控除額は年末残高の0.7パーセントで計算されるため21万円になります。この場合、繰り上げ返済をせずに住宅ローンを残しておいたほうが、差し引きで手元に残る金額は大きくなります。
ただしこれは、控除率と実際の借入金利の差、そして各家庭の資金繰りやローン以外の資産運用の方針によって損得が変わる話です。控除期間が終わったあとにまとめて繰り上げ返済する方針を取るかどうかは、金利情勢や家計の状況を踏まえて、繰り上げ返済のたびに損得を計算してから判断してください。
6. 繰り上げ返済をした年の年末調整の書き方
繰り上げ返済を行った年でも、年末調整の住宅借入金等特別控除申告書の書き方自体は通常と変わりません。繰り上げ返済後の年末残高が反映された年末残高等証明書が、秋から冬にかけて金融機関から送付されてきますので、そこに記載された年末残高をそのまま申告書の該当欄に転記して会社に提出します。繰り上げ返済のタイミングによっては、当初発行された証明書とは別に、繰り上げ返済後の残高で再発行された証明書が届くことがあります。届いた証明書のうち、日付が新しいほうの数字を使ってください。
7. よくある質問
他の金融機関へ借り換えをした場合、返済期間の判定はどうなりますか
借り換え後の新しいローン契約について、改めて返済期間が10年以上あるかどうかで判定されます。借り換え前の返済期間は引き継がれず、借り換え時点で新しい契約の返済期間が10年に満たない場合は、住宅ローン控除を受けられなくなります。借り換えを検討する際は、新しい契約の返済期間を事前に金融機関へ確認してください。
繰り上げ返済で年末残高が減ると、控除額はどう変わりますか
住宅ローン控除の金額は年末残高に控除率を掛けて計算するため、繰り上げ返済によって年末残高が減れば、その年の控除額もそれに応じて少なくなります。返済期間の10年要件を満たしている限り、控除自体がなくなるわけではなく、計算の基礎となる残高が減る形です。
通算返済期間が10年をわずかに超えるかどうか微妙な場合、誰に確認すればよいですか
まずは借入先の金融機関の窓口で、繰り上げ返済後の通算返済期間を試算してもらってください。それでも判断が難しい場合は、税務署の電話相談窓口や、勤務先の年末調整担当部署を通じて確認する方法もあります。金額を確定させる前に確認する順番を守ることが大切です。
まとめ
住宅ローン控除の対象となる借入金は、租税特別措置法第41条第1項第1号により、契約上の償還期間が10年以上の割賦償還であることが要件とされています。繰り上げ返済によって返済期間が短くなった場合の判定は、国税庁の質疑応答事例が示すとおり、最初にローンを返し始めた月から繰り上げ返済後の最終返済月までの通算期間で行われます。期間短縮型の繰り上げ返済を選ぶ際や、借り換えを行う際は、この通算期間が10年を割り込まないかどうかを、金額を決める前に金融機関の窓口で確認してください。
住宅ローン控除の申告書作成でハガキの数字をどこに転記すればよいか迷う場合は、書けた年末調整を使うと、証明書の年末残高を入力するだけで申告書の該当欄に反映されます。