「海外に住んでいる両親や、留学中の子どもを年末調整で扶養に入れられるのか」
「送金証明書というものが必要になったと聞いたけれど、普通の銀行の振込明細ではだめなのか」
「両親2人分をまとめて父の口座に送金しているけれど、これで扶養控除は2人分認められるのか」
外国人労働者や、海外赴任・海外留学中の家族を持つ会社員の間で、ここ数年でもっとも書類の準備が厳しくなったのが、海外に住む親族(国外居住親族)についての扶養控除です。令和5年1月からの税制改正により、30歳以上70歳未満の親族を扶養に入れる場合は、年間38万円以上の生活費や教育費を送金している事実を、書類で示さなければならなくなりました。
ここでは、国税庁の一次情報にもとづいて、対象になる年齢の条件、会社に提出する書類の中身、そして複数人を扶養に入れる際に多くの人がつまずく送金の落とし穴まで、実務の手順に沿って整理します。
1. 令和5年の改正で何が変わったのか

国税庁の公式見解・1次情報
国税庁タックスアンサー「No.1180 扶養控除」の注4では、非居住者である親族について扶養控除の適用を受ける場合の要件が示されています。年齢30歳以上70歳未満の非居住者については、次のいずれかに該当しない限り控除対象扶養親族から除外されると定められています。留学により非居住者となった者、障害者、その居住者からその年において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受けている者、のいずれかです。
出典:国税庁 タックスアンサー No.1180「扶養控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
つまり令和5年分以降の所得税では、海外に住む親族を扶養に入れられる対象者が、次の3パターンのいずれかに絞られています。
| 区分 | 対象になる人 | 送金額の要件 |
|---|---|---|
| 16歳以上30歳未満 | 海外留学中の大学生、海外在住の若い親族 | 送金額の要件なし |
| 70歳以上 | 海外の母国で暮らす高齢の両親・祖父母 | 送金額の要件なし |
| 30歳以上70歳未満 | 留学中の人、障害者手帳を持つ人、または年38万円以上の送金を受けている人 | 上記のいずれかに該当しない限り対象外 |
働き盛りの30歳以上70歳未満の海外親族については、留学や障害の事情がない限り、年38万円以上の仕送りを証明できる人以外は扶養控除の対象から外れます。ここが今回の改正の一番の核心です。
2. 現場のリアル。両親2人分を1つの口座に送金して片方が否認された話
ある会社員は、フィリピンで暮らす両親を2人とも扶養に入れるつもりで、父親名義の口座に年間80万円をまとめて送金していました。両親合わせての生活費だから40万円ずつ渡っている感覚で、年末調整の申告書にも父親と母親の両方を控除対象扶養親族として記入して提出したそうです。
ところが会社の経理担当者から、送金明細の名義を確認したところ「これでは父親への80万円送金としか読み取れず、母親への送金実績がゼロと判定される」と指摘されました。税法上は、実際にお金が着金した口座の名義でしか送金実績が認められないため、父親の控除は成立しても、母親の控除はその年見送らざるを得なくなったといいます。「同じ家に住む夫婦なのだから合算で構わないだろう」という感覚は、この制度では通用しません。扶養に入れたい親族が複数いる場合は、必ずその人自身の名義の口座へ個別に送金し、それぞれの送金明細を残しておく必要があります。
3. 会社へ提出する2つの必須書類

海外在住の親族を年末調整で申告する場合、次の2つの書類を会社へ提出します。
親族関係書類は、外国政府や自治体が発行した出生証明書や婚姻証明書に、日本語の翻訳文を添えたものです。専門の翻訳会社に依頼する必要はなく、申告者本人や家族が自分で日本語訳を作成し、翻訳者の氏名を記載したもので有効とされています。
送金関係書類は、銀行や資金移動業者が発行する送金明細書、または海外の家族に持たせているクレジットカードの利用明細書です。いずれも、送金日、送金金額、送金者名、受取人名が読み取れる状態で保管しておく必要があります。
4. 年末調整の申告書の書き方
会社から配られる「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」のうち、控除対象扶養親族を記入する欄に、海外親族の氏名、マイナンバー、続柄、生年月日を記入します。あわせて「非居住者である親族」のチェック欄にチェックを入れ、該当する区分(30歳未満、70歳以上、38万円以上の送金を受けている、のいずれか)を選びます。そのうえで「生計を一にする事実」欄に、その年1年間にその親族へ送金した合計金額を日本円換算で記入します。
外貨で海外送金をした場合の日本円への換算レートは、送金を実行した日のTTM(対顧客電信売買相場の仲値)で計算するのが基本です。実務上は、銀行の送金明細に記載されている日本円の引き落とし額をそのまま転記すれば問題ありません。
5. 現場のリアル。締切前日に翻訳文を作り直した父親

ある父親は、ベトナムに住む自分の母親(申告者本人の祖母にあたる)を扶養に入れようと、現地の人民委員会が発行した親族関係書類を取り寄せていました。ところが提出直前になって、自分で作った日本語訳に翻訳者の氏名を書き忘れていたことに気づいたそうです。会社の総務からは「翻訳者名の記載がないと、誰が訳したものか分からず受理できない」と差し戻され、提出期限の前日に慌てて訳文を作り直したといいます。書類そのものは正しくても、翻訳者名という一行が抜けているだけで受理されないことがあるため、原本と訳文はセットで、翻訳者の氏名まで記載して準備しておくことが欠かせません。
6. 国・地域ごとの親族関係書類の例
主要な出身国・在住国における親族関係証明書の名称と発行機関の例です。
| 国・地域 | 親族関係書類の名称 | 発行機関 |
|---|---|---|
| 中国 | 出生医学証明、親属関係公証書、戸口簿 | 公証処・公証役場 |
| フィリピン | 出生証明書(Birth Certificate)、婚姻証明書 | PSA(フィリピン統計庁) |
| ベトナム | 出生証明書(Giay khai sinh)、世帯主登録簿 | 人民委員会 |
| 韓国 | 家族関係証明書、基本証明書 | 住民センター・領事館 |
| アメリカ・欧州 | Birth Certificate、Marriage Certificate | 州政府・行政窓口 |
いずれも原本に日本語の翻訳文(翻訳者の署名付き)を添えて会社へ提出します。翻訳文には、原本の名称と発行機関、翻訳した内容(申請者本人と親の氏名・生年月日)、原本を正確に翻訳したことを証明する一文、翻訳年月日と翻訳者の氏名を記載しておくと、総務側での確認がスムーズです。
7. 送金証明書の集め方
送金アプリや銀行ごとに、証明書の取得方法は次のとおりです。
WiseやRevolutといった資金移動業者を使った場合は、取引履歴から該当の送金を選び、送金証明書(PDF)をダウンロードします。受取人名、送金金額、完了日が記載されたものであれば、公的な送金関係書類として扱われます。銀行窓口で送金した場合は、送金依頼書のお客様控え(原本)を保管しておきます。クレジットカードの家族カードで海外の家族に決済させている場合は、カード会社のWEB明細から海外利用明細(受取店、金額、現地通貨、換算レート)を印刷しておきます。
8. よくある質問
海外送金アプリの送金明細は証明書として使えますか
使えます。WiseやRevolut、ウエスタンユニオンといった公式な資金移動業者が発行する送金証明書(取引履歴明細)であれば、送金日、送金金額、送金者名、受取人名が明記されている限り、公的書類として認められます。PDF明細書を印刷して提出してください。
クレジットカードの家族カードを海外の家族に渡して使わせている場合はどうすればいいですか
家族カードの利用明細書が送金関係書類として認められます。家族カードで決済された代金を、日本にいる申告者本人の口座から引き落としている明細書を提出してください。
両親2人ともまとめて扶養に入れたい場合、どうすれば否認されませんか
扶養に入れたい親族それぞれの名義の口座へ、個別に送金することが必須です。1つの口座にまとめて送金すると、税法上はその口座の名義人にしか送金したとみなされないため、もう一方の親の扶養控除が認められません。振込先の口座を分けるだけで防げるミスなので、年末調整の時期の前に家族と相談しておくと安心です。
まとめ
海外に住む家族を扶養に入れる際は、まず30歳未満か70歳以上か、あるいは30歳以上70歳未満で留学・障害・年38万円以上の送金のいずれかに該当するかを確認します。そのうえで、外国政府発行の親族関係書類(日本語訳付き)と、送金関係書類の2つを会社に提出します。複数人を扶養に入れる場合は、必ず1人ひとりの名義の口座へ個別に送金し、それぞれの送金明細を残しておくことが欠かせません。
送金額の合計や日本円への換算、申告書のどの欄に何を書けばいいかで迷ったときは、『書けた年末調整』でスマホから質問に答えていくだけで、該当する区分と記入内容を整理できます。書類を前に手が止まってしまう前に、一度試してみてください。
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