年に一度しか書かない年末調整の書類は、扶養控除等申告書、基礎控除申告書、保険料控除申告書と、書き慣れない名前の書類が3枚並びます。氏名や住所を書き終えて安心したところで、続柄の欄に配偶者の名前を書いてしまった、保険料の金額を一桁多く書いてしまった、というミスに気づいて手が止まる。年末調整の書類で一番よくあるつまずきです。
修正液や修正テープでサッと消してしまいたくなりますが、これは年末調整の書類では認められていません。ではどう直せばいいのか、なぜダメなのか、提出したあとに気づいた場合はどうすればいいのか、順番に見ていきます。
1. なぜ修正液がダメなのか。この書類の正体を知っておく

そもそも扶養控除等申告書や基礎控除申告書は、会社が独自に用意したアンケート用紙ではありません。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)」のページでは、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書、給与所得者の保険料控除申告書について、様式そのものと記載例が公開されています。
出典:国税庁 各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など) https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/shinkokusyo/index.htm
つまり、あなたが書いているのは全国どの会社でも同じ、国税庁が定めた共通様式です。そしてこの用紙に書いた続柄、生年月日、保険料の金額、マイナンバーといった情報は、そのまま12月の年末調整の計算に流し込まれます。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.2662 年末調整のしかた」では、年末調整について次のように説明されています。
『給与の支払者は、給与所得者の扶養控除等申告書を提出している人について、その年最後に給与の支払をする際に、年間の給与総額に対する年税額と、その年中に源泉徴収した税額の合計額とを比べて、過不足額を精算します』
出典:国税庁 タックスアンサー No.2662「年末調整のしかた」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2662.htm
申告書に書いた1文字が年税額の計算根拠になる以上、あとから「誰が、いつ、何を、どう書き換えたのか」が分からなくなる修正液や修正テープは使えません。総務の担当者は、あなたが最初に何と書いて、どう直したのかを目で追える状態でなければ処理を進められないのです。シャチハタなどのインク内蔵型スタンプ印も同じ理由で避けたほうがよいとされています。時間の経過や摩擦でインクが薄れて消えてしまう性質があり、公的な性格を持つ書類の訂正印としては朱肉を使う認印が原則になります。会社によっては提出書類のルールに「シャチハタ不可」と明記していることもあります。
2. 正しい訂正の手順は「二重線」と「訂正印」
書き間違えた箇所は、次の手順で直します。
| 手順 | 作業内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1 | 間違えた文字の上に二重線を引く | フリーハンドで乱雑に引くのではなく、定規を使って元の文字が読み取れる状態を保つ |
| 2 | 二重線に少し重ねて訂正印を押す | 朱肉を使う認印を使用する。シャチハタは避ける |
| 3 | 近くの余白に正しい内容を書く | 訂正印のすぐ上か横に、はっきりとした文字で書き直す |
見た目は多少ごちゃつきますが、この手順さえ踏んでいれば書類として何の問題もありません。
【現場のリアル】訂正印を忘れてそのまま提出し、突き返された話
ある建設会社の総務担当者から聞いた話です。毎年12月上旬、書類の束を回収していると、二重線だけ引いて訂正印が押されていない用紙が必ず数枚混じるそうです。本人としては「線を引いて直したから伝わるだろう」という感覚なのですが、総務側の立場では、誰が訂正したのか特定できない書類をそのまま税務署提出用の計算根拠にはできません。結局その場で本人を呼び出し、訂正印を押し直してもらう、あるいは判子を忘れてきた場合は翌日以降に出直してもらうことになります。年末調整の繁忙期に総務と本人の双方が二度手間になるだけなので、二重線を引いたら判子までワンセットで済ませる、これに尽きます。
3. 訂正印を押すスペースがない・間違いが多すぎるときはどうするか

記入欄が小さく、二重線を引いたあとに訂正印を押す余白が残っていない場合は、少し離れた欄外の余白に正しい文字を書き、その近くに訂正印を押しても構いません。どこをどう直したのかが矢印などで伝わるように書き添えておくと、確認する総務担当者もひと目で判断できます。
一行まるごと書き間違えた、複数の項目にまたがってミスがある、という場合は、無理に訂正印を重ねていくと書類全体が判読しにくくなります。この場合は総務の担当者に新しい用紙をもらうか、国税庁のホームページから該当年分の様式をPDFでダウンロードして印刷し、最初から書き直したほうが早いです。前述の各種申告書・記載例のページから、扶養控除等申告書や基礎控除申告書の最新様式を入手できます。
【現場のリアル】マイナンバーを1桁書き間違え、総務から呼び出された話
これが一番緊張する場面だという声をよく聞きます。マイナンバー(個人番号)は12桁の数字で、1桁でも書き間違えると別人の番号になってしまう可能性があるため、通常の記入ミス以上に扱いが慎重です。ある会社員は、扶養控除等申告書のマイナンバー欄で下2桁を書き間違えたまま提出してしまい、後日総務担当者から社内メールで「マイナンバーの記載についてご確認したいことがあります」と呼び出しを受けたそうです。本人確認書類を再度持参し、担当者の目の前で二重線と訂正印を押して書き直す、という流れになったといいます。マイナンバーは税や社会保障の手続きで本人を特定する重要な情報のため、会社によっては一般の記入欄以上に慎重な訂正手順(担当者の目の前での訂正、本人確認書類の再提示など)を求めることがあります。書き間違いに気づいたら自己判断で直さず、先に総務や人事の担当者に一声かけておくと余計なやり取りが減ります。
会社に提出する前にできる、書き間違いそのものを減らす方法
ここまで訂正の手順を説明してきましたが、そもそも小さな枠に手書きで金額や続柄を書き写す作業自体が、書き間違いの主な原因です。保険料控除の計算式が複雑で自信が持てない、扶養親族の年齢を数え間違える、といった声も少なくありません。
『書けた年末調整』は、こうした手書きの手間をスマホ上の質問形式に置き換えたサービスです。画面の案内に沿って質問に答えていくだけで、必要な項目だけが自動で表示され、生命保険料控除などの計算もシステム側で処理されます。入力を間違えたと気づいても、紙のように二重線や訂正印を用意する必要はなく、該当の画面に戻って数字を打ち直すだけで済みます。手書きの訂正作業そのものをなくしたいという方には合っている選択肢です。
無料で申告書を作成してみる4. 提出したあとに書き間違いに気づいたらどうするか

会社に書類を出し終えたあとで間違いに気づいた場合でも、慌てる前にまず確認すべきことがあります。
まずは総務・人事の担当者に伝える
保険料控除の記入漏れ、扶養親族の年齢の書き間違いなど、税額計算に直結する内容であれば、気づいた時点ですぐに会社の年末調整担当者へ報告してください。会社側の処理がどの段階まで進んでいるかによって、対応できる範囲が変わってきます。
会社での「年末調整のやり直し」は1月末までが目安
会社は源泉徴収した所得税額を、年末調整の計算を終えたあと、法定調書として税務署に提出する義務があります。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.7400 法定調書の提出義務者」では、給与所得の源泉徴収票をはじめとする主な法定調書について、次のように定められています。
『これらの法定調書は、原則として、支払の確定した日の属する年の翌年1月31日までに提出しなければなりません』
出典:国税庁 タックスアンサー No.7400「法定調書の提出義務者」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7400.htm
給与所得の源泉徴収票についても、国税庁タックスアンサー「No.7411 『給与所得の源泉徴収票』の提出範囲と提出枚数等」に同様の期限が明記されています(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7411.htm)。この翌年1月31日という期限があるため、12月の給与計算が締まったあとでも、1月中であれば会社側が年末調整の計算をやり直してくれる余地が残っています。ただし、これは会社側にとって追加の事務負担になる作業のため、必ず対応してもらえるとは限りません。給与システムの締め処理がすでに終わっている、経理担当者が他の決算業務で手一杯といった事情で断られることもあります。
【現場のリアル】12月の給与明細を見て還付ゼロに気づいた話
ある会社員は、10月に生命保険の控除証明書が届いていたにもかかわらず、保険料控除申告書への記入をうっかり忘れたまま提出していました。12月の給与明細を開いて、例年あるはずの還付がゼロだったことで初めてミスに気づき、翌朝すぐ経理に相談したそうです。幸い1月中旬というタイミングだったため、経理担当者が年末調整のやり直しに応じてくれ、給与とは別に還付分が振り込まれる形で解決しました。本人いわく「1日連絡が遅れて2月にずれ込んでいたら、確定申告に回されていたと思う」とのことです。気づいたその日のうちに担当者へ一報を入れる、これが一番効きます。
期限を過ぎてしまったら自分で確定申告(還付申告)
会社側の年末調整の処理がすでに完了し、法定調書の提出も済んでしまっている場合は、会社での修正はできません。この場合は、自分で税務署へ確定申告(還付申告)をすることになります。確定申告期間中(原則2月16日から3月15日ごろ)に正しい内容で申告し直せば、納めすぎた税金は還付という形で戻ってきます。会社を通さず自分で手続きする分、書類集めや記入の手間は増えますが、払いすぎた税金を取り戻す権利がなくなるわけではありません。
まとめ
年末調整の書類を書き間違えたときは、次の点を押さえておけば落ち着いて対応できます。
- 修正液・修正テープは使わない。書類の記載事項は年末調整の計算根拠であり、誰が何を直したか分からない状態にしてはいけない
- 訂正は二重線と朱肉の訂正印(シャチハタは避ける)で行う
- 訂正印を押すスペースがない、間違いが多すぎる場合は、余白活用か新しい用紙での書き直しを検討する
- マイナンバーの訂正は特に慎重に。自己判断で直さず先に担当者へ相談する
- 提出後に気づいたら、まず担当者へ即連絡。会社の対応は原則1月31日の法定調書提出期限が目安になる
- 期限を過ぎてしまったら、自分で確定申告(還付申告)をすれば税金は戻ってくる
書き間違いそのものは誰にでも起こります。手順を知っていれば、それ以上に慌てる必要はありません。